加藤裕之(コナミ体操競技部監督)
ロンドン五輪で「体操ニッポン」を率いることになるだろう。金メダル候補の内村航平らコナミ体操競技部3人に加え、長男の凌平(順天堂大)も五輪代表となった。
コーチとしての責任は重い。6月某日、東京都内のナショナルトレーニングセンターで行われた公開練習。加藤は代表選手の演技をじっと見守り続け、演技の合間にアドバイスを1つ、2つ送るだけだった。
加藤、曰く。「まだ選手を追いこむような時期ではない。この器具になれるのが一番大事です」と。
努力の人である。現役時代、筑波大から大和銀行に入り、1988年ソウル五輪を目指したが、代表最終選考会では8位に沈み、池谷幸雄、西川大輔の高校生コンビに屈した。でも挑戦意欲は衰えなかった。翌89年の世界選手権では平行棒の月面宙返り降りの新技を披露し、「ヒロユキ・カトウ」の技名を残した。
48歳。これまでの豊富な経験が現在の指導を支えている。選手によって言葉を変える。指導法、言葉の引き出しも多い。練習はウソをつかない、が持論。「最大の敵は自分」というフレーズは違うのではないかと思っている。
「逆で、“最大の味方は自分だぞ”と選手には言っています。最後に頼れるのは自分。納得できる練習を積んでいれば、結果は絶対についてくるものなんです」
本人は五輪には出場できなかった。でも思いを継いだ長男の凌平がロンドン五輪の舞台に立つ。教え子の内村も金メダルに挑む。
「僕自身は、オリンピックは戦いだと思っています。強い気持ちを持って、戦いにのぞんでほしい。楽しむところは楽しんでもらって結構ですが、やはり最後には選手に“戦いだぞ”と言いたいのです」
五輪は戦いなのだ。その戦いで満足できる技ができた時、あるいは出来なかった技を完ぺきに演じた時に初めて、えもいわれぬ喜びを味わうことになる。選手もコーチも。その喜びの先に金メダルが待っている。