安田善治郎(ホッケー女子日本代表監督)
浅黒く日焼けした顔。メガネの奥の覇気をたたえた眼。65歳とは思えない迫力が小柄なからだ全体からあふれている。ロンドン五輪のホッケー女子日本代表「さくらジャパン」監督の安田善治郎は代表選手発表の席上、「今回はメダルを獲る」と言ってのけた。
そうはいっても、世界ランキング9位の日本が入った五輪1次リーグのA組には、オランダ(同1位)、英国(同4位)、中国(同5位)、韓国(同8位)、ベルギー(同16位)と強豪がずらりと並ぶ。「どこで勝負を?」と問うと、即答だった。「動いて、動いて、走り勝つ。サッカーのなでしこと一緒です。プレスをかけて、相手を包囲して、組織でボールをとって、点を獲っていく。ま。背景にあるのは体力です」
1968年メキシコ五輪代表でもあった安田の指導哲学は明快である。走りこむ。どんなことがあっても、選手たちを走らせるのである。69年には岐阜県立女子商業高校に赴任し、厳しい鍛練を課して高校総体優勝20回などの実績をつくった。女子日本代表のコーチを経て、監督に就任する。2度目の監督時代、2004年アテネ五輪に日本代表を導く。アテネ五輪後に監督を辞め、北京五輪惨敗を受け、ふたたび監督に復帰した。
いわば三度目の正直である。貧乏協会ゆえ、代表合宿の環境は厳しいけれど、「ハングリー精神が培われる」と気にしない。練習では、とことん走らせる。例えば、毎日2時間のフィジカル練習では300メートルを全力で5周走らせ、これを3本繰り返す。四股踏み、綱登り、ハードル走も。選手がへばって倒れても、見ながら知らない顔をする。
「だって同情を求めているだけでしょ。もちろんケガの時は別。でも疲れて倒れているのなら、あえて声をかける必要もありません」
でも、心で「がんばれ」「がんばれ」と念じているという。体格、パワーで劣る外国勢に勝つには体力で対抗するしかないのだ。
「“走れ、走れ、もっと走れ”です。選手と同じ気持ちで、同じように興奮して練習しています。“走れなかったから負けた”なんてコメントは聞きたくない。なぜ、走れなかったのか。練習で選手に迎合したからですよ。選手に迎合したら強い集団はできません。絶対に」
時代錯誤というなかれ。今も昔も日本の武器は「走力」「体力」なのである。