渡辺啓太(バレーボール日本代表女子アナリスト)

わたなべ・けいた 1983年、東京都生まれ。専修大学バレーボール部時代に独学でアナリスト活動を開始。大学3年時、全日本女子ナショナルチームのアナリストに抜擢。2006年、日本バレーボール界初のナショナルチーム専属アナリストとして日本バレーボール協会に所属。08年、全日本女子チームアナリスト。10年、イタリア・セリエA1のNOVARAにデータバレー留学。日本オリンピック委員会専任情報・科学スタッフ。

躍進する女子バレーボールの日本代表を支える一人である。5月のロンドン五輪最終予選でも連日、真鍋政義監督ほか、主将の荒木絵里香、エースの木村沙織らに充実したデータを迅速に渡し続けた。

バレーボールはいわば「情報戦」である。試合中もタイムアウトがとれるし、監督はプレーのインターバルにコートサイドから指示を出すことができる。いつも渡辺はエンドラインの後方に陣取り、試合中のデータを分析、瞬時に手元のパソコンから無線LANで監督の持つ「iPad2」に飛ばし続けた。分析データを受けた監督は、効果的なスパイクのコース、ローテーションごとのサーブやブロックの狙い目などを選手に指示することとなった。

大会中、睡眠時間は日に3、4時間となる。その日の日本の個人データだけでなく、翌日の対戦相手の試合も収集し、専用ソフトで分析する。もっとも、一番大事なことはいかに選手にうまく伝えるか、である。

試合前の練習では、毎日、いろんなデータを壁に張り出す。「1日1日の結果に一喜一憂しないでほしい。野球であっても、1日で5打数5安打の日があれば、5打数ノーヒットの日もある。首位打者でも5割には届かない。毎日のチェックも大事だけれど、自分が目標の数字に対して近づいていっているのかどうか、長いスパンで数字というものを考えることが大事なのです」

専修大学ネットワーク情報学部卒業の28歳。この春、日本バレーボール協会の職員と結婚した。監督、コーチ、選手からの信頼は絶大である。選手にも、わかりやすく、データを説明する。「どんなデータがあっても、要はそれをコートで生かすかどうか。自分でデータを見て、考えて、実行しなさい」と諭すのである。

日本の目標は「五輪メダル獲得」。渡辺の働きと情報戦略なくして、その目標達成はありえない。 

(坂本 清=撮影)