戦時中に全米で目撃された“謎の気球”の正体

アメリカの上空で「気球」が撃墜され、現地メディアはこのニュースを大きく報じている。米国防省は中国の偵察用気球と断定し、中国が数年前から大規模な偵察活動を続けていたと指摘。米中対立の再燃が懸念される事態になっている。

2023年2月5日、サウスカロライナ州マートルビーチ沖の大西洋で、高高度偵察気球を回収する第2爆発物処理班所属の海兵隊員たち
写真=US NAVY/AFP/時事通信フォト
2023年2月5日、サウスカロライナ州マートルビーチ沖の大西洋で、高高度偵察気球を回収する第2爆発物処理班所属の海兵隊員たち

こうした報道に関連して、アメリカでにわかに注目されている別の気球がある。80年前にアジアから流れ着いていた日本軍の気球だ。

1944年、第2次世界大戦まっただ中のアメリカで、各地の保安官事務所におかしな報告が相次いでいた。ある住民は飛行機が墜落したと通報し、別の住民は石油タンクが爆発したと述べ、別の町では閃光せんこうを見たとの報告が入っている。共通しているのは、何か大きな爆発が起きたということだ。

奇妙な現象の正体は、日本軍が放った実験的な気球兵器によるものだった。のちにジェット気流と呼ばれることになる偏西風に乗って太平洋を越え、アメリカ本土に続々と押し寄せたのだ。「ふ号作戦」と呼ばれたこの作戦で放たれた気球の数は約1万機に上る。このような気球爆弾は全米26の州で発見または観測されたほか、メキシコでも確認された。

気球は充填じゅうてんされた水素によって浮遊し、爆弾をアメリカへ運んだ。米ワシントン・ポスト紙は、各気球には2発の焼夷しょうい弾のほか、33ポンド(約15キロ)の対人爆弾が積まれていたと報じている。

これらの気球爆弾がアメリカ本土にもたらした被害は限定的であり、現地でも一部の人々が語り継ぐ知られざる逸話となっている。風任せの変わった作戦として、時折メディアで紹介される程度だったが、今再び注目を集めている。