名古屋名物「きしめん」の消費量が減っている。ライターの大竹敏之さんは「きしめんは、作るのに手間がかかる割に儲けが少ない。このため提供する店が減り、名古屋人のきしめん離れが進んでいる」という――。(第2回)

※本稿は、大竹敏之『間違いだらけの名古屋めし』(KKベストセラーズ)の一部を再編集したものです。

名古屋駅ホームの立ち食いきしめん「住よし」
名古屋駅ホームの立ち食いきしめん「住よし」(写真=『間違いだらけの名古屋めし』より)

名古屋で一番うまい「きしめん店」はどこか

名古屋めしの中でも最も歴史があるといわれるきしめん。

明治時代には既にご当地の名物とされ、全国的な知名度も名古屋めしの中で随一です。

しかし、きしめんは最も誤解されている名古屋めしでもあります。

きしめんは新幹線名古屋駅ホームの立ち食いスタンドが一番うまい!

きしめんに対する評価で、このフレーズは最もよく耳にするものです。特に、地元のミドル世代以上のビジネスマンが、テレビの取材などでドヤ顔でこう答えたりしています。

河村たかし市長からして「これが一番うみゃ~!」なんて言っていますから、名古屋の特にオジさん世代の共通認識とすらいえます。

名古屋駅ホームの立ち食いきしめんがうまい! これは私も否定はしません。新幹線の待ち時間にだしのいい香りが漂ってくるとそれだけで食欲がそそられます。急いでいる時でも5分もあれば小腹を満たすことができ、行き交う列車を横目にアツアツのきしめんをすするとそれだけで旅情が感じられます。

日本で最も食べられている店

事実、名古屋駅ホームのきしめん店は、こだわるべきところにはしっかりこだわって味づくりをしています。

「だしは国産むろあじと宗田がつおの削り節を使用し、創業当時から配合は変わりません。一度だけ外国産の材料で試作したのですが、微妙な臭みが気になり採用を見送りました。麺はオリジナルの生冷凍麺。のどごしを重視して何度も試作をくり返しました。“もっとなめらかに!”“うどんを平たくしただけではダメだ”と当時の担当者がメーカーに何度もリクエストしたと聞いています」とジャパン・トラベル・サーヴィス名古屋営業所長の桑原栄介さん。

同社は1961(昭和36)年に国鉄(当時)名古屋駅の在来線ホームに2店のきしめん店を出店し、1983(昭和58)年には新幹線のホームにも進出。

現在、JR名古屋駅にきしめん店10店舗を展開します。ちなみに「住よし」「憩」と2つの店舗ブランドがありますが、「メニューはほとんど同じで、提供しているきしめんは同じもの」(桑原さん)と言います。

同社のきしめん店の年間販売数は実に100万食(コロナ禍以前の実績)。全国の人に最も食べられているきしめんといえるでしょう。

“きしめん=名古屋名物”というイメージを全国に広め、印象づけた功労者であることにも疑いの余地はありません。

では、最も食べられているきしめんは最もおいしいきしめんなのか?