秋の徴兵におびえるロシア人たち

ロシアで秋の徴兵が始まった。ウクライナ情勢を念頭に、市民には不安が広がる。

招集された予備役
写真=AFP/時事通信フォト
2022年9月27日、ロシアの部分動員令で招集され、クリミア半島での出発式に臨む予備役(ウクライナ・セバストポリ)

独立系メディアのモスクワ・タイムズ紙は、「軍当局は新兵がウクライナに送られることはないと公約しているが、この発言に対しては懐疑的な見方が広がっている」と指摘する。

秋の徴兵は12月31日までの予定で実施され、春の徴兵とあわせて毎年恒例となっている。18歳から27歳までの男性から選抜を行い、今年は秋だけで12万人が1年間の兵役に就く予定だ。

カタールの衛星放送局アルジャジーラによるとロシアの徴兵制には、非常時に召集可能な兵士である予備役を育成するねらいがある。

彼らは最長で8カ月間にわたる訓練を受け、各部隊に配属されたのち、徴兵から1年後には兵役解除となる。だが、その後は予備役として新たに登録され、戦争など国家に非常事態が発生した場合に急遽駆り出されることになる。ロシアは現在、200万人の予備役を擁する。

秋の徴兵以前には今年9月末、第二次世界大戦以来初となる「部分的動員令」をプーチン大統領が発令した。わずか2カ月ほどのあいだに、確認されているだけでも326人の動員兵が死亡している。オープンソースの情報をもとに、独立系ロシア紙のノーヴァヤ・ガゼータなどが報じた。

ロシアには現在、およそ200万人の予備役が存在する。いつ号令がかかり動員されるとも知れない予備役とその家族らは、眠れぬ夜を過ごしている。
 

「3分で別れを済ませろ」

米メディアのヴァイスは召集された若い予備役への取材を通じ、強引な徴兵の実態を明かしている。

27歳のある兵は取材に対し、徴用の報せから24時間以内に戦地へ赴く身支度を済ませなければならなかったと明かした。別の街に住む父親に、せめて別れの挨拶をしたかったと悔やむ。

「当然のことだけれど、せめて2日くらいは別れを告げる時間がほしい。そんなことが可能かはわからないけれど。父にさよならを言えなかったことが、心の重荷になっているんです」

徴兵のバスが出発する間際、駆けつけた父親がなんとか間に合った。再会を喜ぶ兵に対し徴兵官は、「3分で別れを済ませ、荷物をバスに積むように」と冷たく告げたという。父親はかろうじて用意した水とヨーグルトを手渡すと、息子を戦地へと送るバスを見送った。

ウクライナの前線での激しい人員喪失を補うべく、徴兵により慌ただしく頭数の確保を試みている状態だ。こうして兵が集められるモスクワの徴兵センターに同メディアが潜入すると、その内部は陰鬱いんうつとした空気が満ちていたという。