4年前の発言に触れると「緊張した沈黙」に

ロシアのプーチン大統領は10月27日、内外の専門家を集めて行う恒例の「バルダイ会議」に登壇したが、3時間半に及んだ演説と質疑応答で、参加者が一瞬、「緊張した沈黙」(ロシア紙)に包まれる場面があった。

ロシアのプーチン大統領
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
ロシア、アルメニア、アゼルバイジャンの3カ国首脳会談の後、報道陣の前で話すロシアのプーチン大統領=10月31日、ロシア・ソチ

司会を務める外交評論家のフョードル・ルキヤノフ氏が核をめぐる緊張が高まっていることに触れ、「4年前のあなたの発言を思い出して不安になった人がいる。大丈夫なのか」と尋ねた。

プーチン氏は2018年10月のバルダイ会議で、「ロシアがミサイル攻撃を受ければ、むろん侵略者に報復攻撃する」と述べ、「われわれは侵略の犠牲者であり、殉教者として天国に行く。彼らは罪を悔いる暇もなく、死ぬだけだ」と語った。核戦争の結果、「天国」に召されるという異常な発言だった。

4年前の発言に関する質問に、プーチン氏はしばらく間を置き、「(会場の)沈黙は効果があったことを示している」と述べて笑いをとったが、笑えないジョークだ。

プーチン氏はまた、「核使用を率先して発言したことはない」としながら、「核兵器がある限り、使用のリスクは常にある」と、核使用を放棄しなかった。

アメリカが核使用の「先例」を作ったと強調

プーチン氏はこのところ、気がかりな発言が目立つ。米ソが核戦争直前までいった1962年のキューバ危機60周年に際して、最終的に譲歩したフルシチョフ・ソ連首相の役回りを想像できるかとバルダイ会議で質問され、「フルシチョフのような自分は絶対に想像できない」と述べた。核の対決で引き下がらない決意を示唆したともとれる。

9月30日、ウクライナ4州を併合した際の演説では、西側諸国が擁護するLGBTQの価値観を「悪魔崇拝」と非難し、新約聖書の「山上の垂訓」でキリストが偽預言者を暴露した一節を引用しながら、「この毒の実は、わが国だけでなく、西側の多くの人々を含めすべての国の人々にとって明らかだ」と意味不明な説明をした。

この演説では、「アメリカは世界で唯一、核兵器を2回使用し、日本の広島と長崎を壊滅させた。アメリカが核使用の先例を作った」と批判した。日本への原爆投下にはよく言及するが、「先例を作った」という表現は初めて。先例があるので、2回目は許されるともとれる。

2017年公開の米映画監督オリバー・ストーン氏によるプーチンのインタビュー映画では、「だれもがいずれは死を迎える。大事なのは、かりそめの世で何をなし得たか、人生を謳歌おうかしたかだ」と達観した発言をした。「核のボタン」を握る人物が大丈夫なのか――と疑わせる発言だった。