「核をいつ使うか、どこで使うか」ロシアでも意見が分かれる

核使用の可能性については、ロシア人専門家の間でも意見が分かれる。軍事専門家のパベル・フェルゲンハウエル氏は9月、筆者らとのオンライン会見で、「プーチンはウクライナを家族の一員と呼び、ロシアの一部とみなしている。核兵器はあくまで抑止力であり、脅すための道具だ。同じスラブ民族に使用するはずがない」と否定的だ。

野党下院議員を務めたアレクセイ・アルバトフ氏は、「ウクライナ軍がクリミアやクリミア大橋、あるいは隣接するロシアの地域に攻撃を行えば、それはロシア領土への攻撃となり、戦術核を使う可能性はかなり高まる」と述べた。

政治評論家のワレリー・ソロベイ氏は自身のユーチューブ・チャンネルで、核使用よりも海での核実験を行う可能性が強いとし、核実験場候補として、①黒海②北極海③太平洋――を挙げた。太平洋の核実験なら中国も反発し、まず考えられないが、「手負いの熊」を極度に刺激しない工夫も必要になる。

核の使用や核実験は、旧ソ連も調印した1963年の部分的核実験禁止条約に抵触する。ロシア政府が条約脱退の手続きをとれば、核使用のリスクが高まろう。

軍事パレード
写真=iStock.com/Elena Ostankova
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小型であれば核兵器を使用するハードルは低い

憂慮されるシナリオは、核使用を主張する政権内強硬派、いわゆる「戦争党」がプーチン氏に圧力をかけることだ。

陸軍大将に昇格したチェチェン共和国のカディロフ首長は10月初め、「ロシアは思い切った作戦をとるべきだ。国境付近に戒厳令を敷き、小型核兵器を使用すべきだ」と主張した。

メドベージェフ前大統領は7月、ウクライナがクリミアを攻撃した場合、核使用を前提に「終末の日」が訪れると警告した。部分的動員令やウクライナの民間施設攻撃は、プーチン氏が「戦争党」の主張に歩み寄ったことを意味する。

前出のフェルゲンハウエル氏によれば、破壊力の大きい戦略核兵器の使用は大統領、国防相、参謀総長の承認が必要だが、出力の小さい小型戦術核は、大統領が使用許可を出せば、軍司令官が攻撃目標や時期を決定できるという。小型核兵器使用のハードルは低いということだ。

プーチン氏は10月、ウクライナ軍事作戦の総司令官に「アルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名をとる強硬派のスロビキン航空宇宙軍総司令官を任命した。同司令官はシリアでの空爆作戦を指揮し、第2の都市アレッポの焦土作戦を推進した。シリア政府軍の化学兵器使用を容認した疑惑もあり、大統領のゴーサインがあれば、戦術核を使用しかねない。