W杯カタール大会、日本は優勝経験国のスペインとドイツを下し1位で予選通過した。日本サッカー躍進の原動力となったのが30年前に発足したJリーグ。そして2014年度から2021年度の8年でJリーグの営業収益を2倍以上に増やしたのがチェアマンを4期8年務めた村井満さんだ。元リクルート執行役員でもある村井さんの「仕事哲学」を、ジャーナリストの大西康之さんが聞く――。(第6回)
村井さんは毎週1回朝礼を開き、年間を通じて34節34枚の色紙を書いた
撮影=奥谷仁
村井さんは毎週1回朝礼を開き、年間を通じて34節34枚の色紙を書いた

スピードは「本気度の代替変数」である

――村井さんを筆頭に、リクルート出身の人たちは例外なく、決断と行動が速いです。パッと決めてパッと動く。何か提案すると、数時間後に「やりましょう」とか「明日、会えますか」とメールが返ってくる。そういうふうに教えられるのでしょうか。

【村井】大好きな彼女からメールが来たら、すぐ返信しますよね。新米社員が社長に言われたら、即行動しますよね。特に経営者本人の場合、スピードって本気度の代替変数だと思っています。大勢の人間がいる組織を預かる立場の人間の判断が遅れると傷つく人が増えたり、命に関わることがあったりします。遅れたばっかりに傷口が広がってしまうわけです。

「はやい」には「早く着手する」と「速く処理する」の二通りがあって、人は本気だったり大切なことに関しては早く着手するし、スピーディーに動きます。それの良いところは、早く着手してスピーディーに処理することで、やってみてダメだった時に何回もやり直しがきいたり、リカバリーできたりする点です。

「クルーズ船問題」が出る前からコロナ対応を協議

――Jリーグチェアマンの判断も大勢の人に影響を与えますよね。

【村井】そうですね。例えば浦和レッズのサポーターが「Japanese Only」という人種差別を想起させる横断幕を掲げた事件の時、われわれは中4日で「無観客試合」という裁定を下しています。判断が遅れれば遅れるほど、選手、サポーター、クラブの中で傷つく人が増えてしまう。だから最善を尽くして判断を急ぎました。裁定を早く出すということが「Jリーグはこの問題を重大なことだと考えています」というメッセージにもなったと思います。

【連載】「Jの金言」はこちら
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コロナ禍は「急ぐ話だ」と思ったので、2020年1月22日に第1回の実行委員会を開き、全クラブに連絡担当者を置いて情報共有を始めました。まだクルーズ船の問題が出る前、国内の感染者がまだ1人の段階でした。

リクルート時代に駐在していた香港の知り合いに連絡をしたら、すでに厳戒態勢を敷いているという。香港は2002年にSARS(重症急性呼吸器症候群=新型コロナと同じウイルス性の感染症)を経験していたので、対応が早かったんですね。上海の友人は、「上海で行われるアジアチャンピオンズリーグのプレーオフはすでに無観客試合になっている」とのことでした。