W杯カタール大会、日本は優勝経験国のスペイン、ドイツを破り1位で予選を通過した。日本サッカー躍進の背景には今年、発足から30周年を迎えたJリーグの存在がある。2014年にチェアマンに就任し4期8年務めた村井満さんは、任期最終年の2021年に毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。34節34枚の色紙の狙いを、ジャーナリストの大西康之さんが聞く――。(第7回)
村井さんは毎週1回朝礼を開き、年間を通じて34節34枚の色紙を書いた
撮影=奥谷仁
村井さんは毎週1回朝礼を開き、年間を通じて34節34枚の色紙を書いた

歓迎の拍手に驚きの拍手、願掛けの拍手も…

――前回「早さと速さが大事」というお話の中で、Jリーグのコロナ・ガイドラインが2年間に40回近く改定されたというエピソードがありました。今年9月9日にも改定されて、スタジアムでの「声出し応援」が部分的に解禁されました。それまでは有観客でも声はなく、拍手だけの応援でした。

【村井】そうそう。それでもサポーターの皆さんは、拍手でいろんな気持ちを表現されていましたね。それで私は自称「拍手評論家」になったわけですけど、拍手には実にいろんな意味があります。

【連載】「Jの金言」はこちら
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シーズンはじめに、新たに就任した監督や新加入の選手が紹介されると「よろしくな」と歓迎の拍手。スコアが0―0のまま終了間際のコーナーキックでは「ここ、頑張れ!」と激励の拍手。それで勝ったら「おめでとう」と祝福の拍手。負けて選手たちが挨拶に来たときは「お疲れ、次頑張れ」と慰労の拍手。選手も「応援してくれてありがとう」と感謝の拍手で返します。

スタジアムの外にもいろいろな拍手があります。経営者の場合、株主総会などで「第3号議案、本件に関して承認の皆様は拍手をお願いします」と言うと承認の拍手が起きます。花火がズドンと上がった時の「おおー」という感嘆の拍手。私なんかは手品で鳩が出てきただけで驚きの拍手。二礼二拍手一礼みたいな願いの拍手もあったりします。

それは「自分に向き合ってくれる」存在がいるから

――拍手評論家の村井さんとしては、そうした拍手をどう分析されているのですか。

【村井】まずどういう時に拍手が起きるか、と考えてみたのですが、家でネット配信の映画を見ていてすごく感動しても拍手はしません。大好きなCDを聴いても、やっぱり感動はするんですが拍手はしない。同じ家にいるのでも、家族の誕生日や娘の合格祝いなら拍手するんですよね。

これは何が違うかというと、拍手するのは自分に向き合ってくれる生身の人間がそこにいることが条件なんですね。そしてリアルタイムで時間を共有している。そんな時、人は拍手をするんです。

サッカースタジアムでは選手が観客の自分に向かって全力でアピールしている。コンサートでも寄席でも生身の人間が自分に向き合ってくれていると感じる。それが同時進行、リアルタイムで行われていて、結末の見えない人間ドラマが存在するとき、人は拍手をするのではないでしょうか。