拍手には「主客が入れ替わる」奥深さがある
――なぜそんなに年中「お祝い」をするのかと思ったら、受賞者は社内の広報誌などでインタビューされて「おめでとうございます。素晴らしい業績ですが、何か秘訣があるのですか」と聞かれ、自分の「必殺技」を披露させられるんですね。必殺技は普通、社内でもライバルには教えたくないものですが、「おめでとう!」と言われると、話さないわけにもいかない。そうやって組織の中で「ベストプラクティス」が共有される。うまいやり方だなあと思いました。
【村井】そういう演出も含めて、ライブ感のある職場、ライブ感のある人生は拍手に溢れています。サッカーもまた拍手に溢れています。これはスタジアムに来てもらっても、DAZN(ネット配信)で見てもらってもいいんですが、選手は必ずファン・サポーターに向き合って、最後の最後まで筋書きのないドラマを演じてくれます。サッカーを見ることで「ライブ感のある生活を送ってください」というのがJリーグからのメッセージです。
さらに言えば、拍手が最高潮に達した時、主客が入れ替わる瞬間というのがあるんですね。今年の8月25日に埼玉スタジアム2002で行われたAFCアジアチャンピオンズリーグの準決勝、浦和レッズ対全北現代の試合は延長を含めた120分で決着がつかず、PK戦にもつれ込みました。これを決めれば決勝進出というキックの瞬間、スタジアムは水を打ったような静寂に包まれ、ゴールが決まった瞬間、爆発的な拍手が起きた。あの瞬間の主役はサポーターでした。
歌舞伎でも、絶妙の間合いで観客が「よっ、成田屋!」と合いの手を入れる瞬間、主客が入れ替わります。コンサートでも同じようなことが起こりますね。
失敗が少ない社会だからこそライブの価値が高まる
昔は職場も毎日がライブでした。いつも予期せぬことが起こり、みんなで必死に対応して、解決すると、どこからともなく拍手が起きる。でもだんだんテクノロジーが発達して失敗が少なくなり、ライブ感が下がりました。これからはAI(人工知能)が発達して、ますます失敗が減るでしょう。
だからこそ、日常生活の中でライブの価値観が高まっていく。本当は今の職場の中にもライブ感というのはあって、それこそ先ほど言われたように、新人が初受注した時なんかにみんなで拍手すれば盛り上がるんですよね。
その点、昭和の会社というのは拍手の空間をうまく演出していたと思います。会社の運動会で社長が大玉転がしに出て、ひっくり返って、みんなで拍手しながら大笑い、みたいな。職場に拍手があるというのは、やっぱりいい会社の証拠なんだと思います。