Jリーグは今年、発足から30周年を迎えた。2014年にチェアマンに就任し4期8年務めた村井満さんは、任期最終年の2021年に毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。34節34枚の色紙の狙いを、ジャーナリストの大西康之さんが聞く――。(第2回)

浦和レッズのサポーターが人種差別的な横断幕

――村井さんは2014年に大東和美さんの後を継ぎ、川淵三郎さんから数えて5代目のJリーグチェアマンに就任します。そこでいきなり……。

【村井】そうなんですよ、いきなり。事件は開幕1週間の3月8日に起きました。場所は浦和レッズのホーム、埼玉スタジアム2002です。第2節のサガン鳥栖戦でレッズのサポーターが「Japanese Only(日本人以外お断り)」という人種差別的な横断幕をホーム側のゴール裏コンコースに向けて掲げたのです。

――村井さんはその場にいなかった。

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【村井】はい。その日は昼間に新潟の試合を観戦し、夜は鹿島に行きました。私はチェアマン時代に年間100試合以上観戦しましたから、アベレージで週に2試合。3~4試合観る週もありました。1日に2試合観る日がないと回りません。

僕が事件を知ったのは翌日。その日はJ3の開幕戦を観戦するため沖縄に入ったんですが、スタッフに「こんなものが出ています」とネットのニュースを見せられました。試合の後、レッズ(当時)の槙野智章選手がTwitterに「浦和という看板を背負い、袖を通して一生懸命闘い、誇りをもってこのチームで闘う選手に対してこれはない」と書き込み、そこから波紋が広がっていました。

広島×川崎戦で“八百長疑惑”が浮上し…

すぐに浦和レッズの淵田敬三社長に連絡をとりました。淵田さんは私がチェアマンになったのと同じタイミングで社長になりました。お互いに新米ですが「これはダメでしょう」という認識は同じでした。

当時、世界のサッカー界は人種差別にものすごく敏感になっていて、この問題についても「さあ、日本はどう対応するんだ」と海外メディアが固唾かたずをのんで見守っていましたからね。対応を間違えれば「日本は人種差別に甘い国」と書かれかねない。

――そこにもう一つの問題が降りかかる。

【村井】はい、「八百長疑惑」ですね。それが3月10日。FIFA(国際サッカー連盟)の下部組織には世界中で違法な賭けを取り締まっている「EWS(Early Warning System)」というところがあって、世界中のサッカー賭博の胴元を調べているんです。私も知らなかったのですが、日本以外でJリーグの試合は賭けの対象になっていたのです。EWSから「3月8日にエディオンスタジアム広島で行われたサンフレッチェ広島と川崎フロンターレの試合の賭け方で「小さな異常値があったから調査しろ」という警告が入りました。