Jリーグは今年、発足から30周年を迎えた。2014年にチェアマンに就任し4期8年務めた村井満さんは、任期最終年の2021年に毎週1枚の色紙を用意して、朝礼を開いた。34節34枚の色紙の狙いを、ジャーナリストの大西康之さんが聞く――。(第5回)

「51人の経営者が次々と出てくる」仕組みを作りたい

――Jリーグチェアマンに就任した村井さんは、サポーターが「Japanese Only」の垂れ幕を掲げた「人種差別問題」など、降りかかってきた難題を次々と解決する一方、しばらくすると自分のほうから改革を仕掛けていきますね。

【村井】チェアマンになってから半年かけて、Jリーグに加盟する51のクラブを全部回って、クラブの社長や会長にお会いしました。そうしたクラブ経営者と一緒に地銀や商工会議所、スポンサーなどを訪問しながらその仕事ぶりを拝見していたのですが、本当に一生懸命経営をされていました。しかしどんなに一生懸命経営をやっても競技成績が下位のチームは次のシーズンに降格するという、厳しい世界です。

「51人のピカピカの経営者が次から次へと輩出され続けていけば、この産業は栄えるな」というのが、全クラブを回り終わった時の感想でした。

【連載】「Jの金言」はこちら
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実際にはどんな人たちがクラブを経営していたかというと、親会社から出向してきた人もいれば、地元の創業経営者や元サッカー選手、公的機関から派遣されている方などバックグラウンドはさまざまです。当然思考回路も判断基準も多様です。

「どうしたら株主の期待に応えられるか」から「人口減でシャッター通りが増えているこの街を、どうやって活性化するか」、はたまた「日本のサッカーをどう強くするか」とさまざまです。いずれも重要な視点なのですが、全体を俯瞰した経営者を育てていくには一定のコーチングが必要だと考え、クラブ・マネジメントの学校を作りました。

まずは「自分にできる領域」から攻める

――Jリーグで経営人材を育てるJリーグヒューマンキャピタル(JHC)ですね。立命館大学の協力を得てJリーグ・立命館「JHC教育・研修コース」が2015年に開講しました。元日本代表で鹿島アントラーズのクラブ・リレーションズ・オフィサー(C.R.O)に就任していた中田浩二氏などが入学して話題になりました。

【村井】元浦和レッズの堀之内聖さんもいましたね。元選手だけではなく、現職の経営者、ビジネスマンなど幅広く集めました。私自身、リクルートに就職して、最初は一日100件、200件の飛び込み営業で求人広告を取るところから始め、リクルートの人事部長や人事担当役員を経験します。

事業では、リクルートエージェントという会社の社長を7年くらいやった後、海外で人材系の会社を経営しました。ある意味30年間くらいずっと人と組織のあり方を追い続けてきた人間なので、Jリーグの中で自分にできる領域はまずここかなと。