立教大学が55年ぶりに箱根駅伝に戻ってきた。多くの大学が起用するケニア人留学生は1人もおらず、予選会突破のセオリーを無視する戦略だったが、見事、難関を突破した。チームを率いたのは世界選手権にも出場し、現在も5000mで13分台の走力を維持する37歳の上野裕一郎監督。スポーツライターの酒井政人さんは「その指導力は箱根駅伝王者・青学大の原晋監督の上をいくかもしれません。人気ブランド校の箱根復帰は今後の学生駅伝の勢力図を大きく変える可能性がある」という――。
立教大学、池袋キャンパス、本館(モリス館)
立教大学、池袋キャンパス、本館(モリス館)(写真=Kakidai/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

青学大・原晋監督以上の“スピード通過”

誰が予想しただろう。“主役”に躍り出たのは立教大だった。2023年正月の箱根駅伝出場をかけた予選会(出場枠10校)が10月15日、開かれた。下馬評を覆しての総合6位。チームを率いる上野裕一郎駅伝監督(37)も「通過するとしたら9番、10番の瀬戸際だと思ったので、うれしいを超えてびっくりしましたね」という“サプライズ通過”だった。

箱根駅伝の予選会は毎秋開催される。その年の正月の本戦で総合成績(往路復路)が10位以内に入った大学はシード権(翌年の出場権)を得るが、11位以下は予選からの出発になる。今回、10校枠をもぎ取るため43校がしのぎをけずった(各校10~12人の選手が同時にハーフマラソンを走り、各校上位10人の合計タイムで争われる)。

立教大はかつて箱根駅伝常連校だった。88年前の1934年の第15回大会に初出場して以降、27回の出場を誇る。しかし、半世紀以上も正月の晴れ舞台に立っていない。

TBS系「サンデーモーニング」でMCを務める関口宏は、「わたくしの母校でございます。55年も何しとったんですかね」とぼやいていたが、今回の立教大は控え目に言ってもすごかった。いかに“価値”があるのか。2つの視点から説明したい。

立教大は創立150周年を迎える2024年の箱根駅伝に出場するプロジェクトを2018年に立ち上げ、同年12月にベルリン世界陸上5000m代表の上野裕一郎駅伝監督が就任した。上野監督の経歴は後述するが、これまでどんな指導をしてきたのか。

本格強化1年目の2019年はスカウティングに注力して、箱根駅伝予選会は2020年が28位。2021年は16位に浮上すると、チームは5km通過時でトップに立つインパクトを残している。

当時・就任3年目だった上野監督は、「目標にしていた15位には届かなかったんですけど、『自分たちの力でどこまでできるか試しなさい』という話のなかで、前半から積極的に走ってくれました。最終的には持たなかったですけど、来年につながるレースができたと思います」と話していた。

そして2022年秋、いよいよ前年までの“経験”が生きることになる。

「最初から前の方に出るのが作戦でした。箱根駅伝はキロ3分が最低ライン。そこを意識するために『15km45分』という目標を設定したんです。コンディションが良くなく、全体的にタイムが出ていないなかで(通過タイムは)良かった。選手たちが努力してくれたからこその今日の順位なのかなと思います」(上野監督)

立教大は5kmを4位、10kmを3位、15kmを5位で通過。前年と異なり、終盤も快調に歩を進めた。そして1年前倒しで“目標”を達成した。

立教大の55年ぶり箱根復帰は、2022年箱根駅伝総合優勝の王者・青山学院大の33年ぶり(2008年の予選会で本選出場獲得)を抜いて、最長期間でのカムバックだ。なお上野監督が就任して4年目での快挙になる。箱根駅伝を6度も制している名将・原晋監督(55)ですら、予選会の通過は就任5年目のこと(※第85回記念大会で通常より3枠多かった)。立教大・上野監督は青学大・原監督を超える“スピード通過”だった。

しかも、当時と箱根駅伝予選会の事情は異なる。立教大の通過には、もうひとつのすごさが隠されている。