恵まれた体格と才能を生かし、「日本一」を目指してスポーツに励む小中学生は多い。だが、親やコーチによる行き過ぎた勝利至上主義によってつぶれてしまう悲劇も起きている。スポーツライターの酒井政人さんは「例えば陸上では、全国中学駅伝(全6区間)で優勝したチームの選手計118人を調べると、その後大学で箱根駅伝に到達したのは8人のみ。五輪や世界選手権の代表になった選手もいない」という――。
柔道着を着た男性
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為末大氏も支持「行き過ぎた勝利至上主義NO」

全日本柔道連盟(以下、全柔連)が例年夏に開催している全国小学生学年別大会を廃止すると発表(1月の理事会で報告され、3月14日付で都道府県連盟宛てに廃止を通知)して、スポーツ界が揺れている。

全柔連は公式サイトで大会廃止の理由を、「小学生の大会において行き過ぎた勝利至上主義が散見される。心身の発達途上にある小学生が勝利至上主義に陥ることは、好ましくない」と説明しているが、皆さんはどう感じるだろうか。

一部で批判的な意見が出ているが、世界陸上の男子400mハードルで2度のメダルを獲得している為末大氏は全柔連の新方針を全面支持している。自身のnoteに「(柔道に限らず)若年層の全国大会が成人になってからの競技力向上に役に立っているかというとマイナス面の方が多いと考えられます」「親と指導者が選手の才能に興奮して舞い上がっている場合、その選手の才能が潰れる可能性が高くなります」などの理由を挙げると、「全国大会の廃止は素晴らしいことだと私は考えます。ぜひ他競技でも追随してほしいです」と結んでいる。

筆者は為末氏がこういう意見をいうことに大きな意義があると思っている。なぜなら為末氏はかつて“早熟の天才”と呼ばれるようなスプリンターだったからだ。

中学3年時(93年)に全中で100mと200mの2冠を達成。秋には200mで21秒36の中学記録(※現在も中学歴代2位)を叩き出した。高校3年時(96年)は400mをメイン種目にしてインターハイで優勝。46秒27の高校記録を打ち立てた(※現在も高校歴代3位)。一方、高校時代は100mと200mでさほどタイムを伸ばすことができなかった。

そして高校3年の秋から取り組んだ400mハードルが最終的なメイン種目となり、2001年に47秒89の日本記録を樹立。世界大会でも活躍した。もし為末氏が100m・200mにこだわっていたら、シニア期で日本トップクラスの結果を残すのは難しかっただろう。