W杯カタール大会で、日本は優勝経験国のスペインとドイツを下しベスト16で大会を終えた。日本サッカー躍進の原動力となったJリーグは、2021年度までの8年で営業収益を2倍以上に増やしている。チェアマンを4期8年務めた村井満さんの「デジタル施策」を、ジャーナリストの大西康之さんが聞く――。(第8回)
村井さんは毎週1回朝礼を開き、年間を通じて34節34枚の色紙を書いた
撮影=奥谷仁
村井さんは毎週1回朝礼を開き、年間を通じて34節34枚の色紙を書いた

公式サイトがPC版のまま、SEOも不十分…

――村井さんがチェアマンの時代にJリーグの収益が大きく伸びた理由の一つに、2016年に結んだ10年間で2100億円という、英ネット配信会社のDAZN(ダゾーン)グループ(契約当時の社名はパフォーム・グループ)との放映権契約があります。

【村井】そうですね。しかしいきなりDAZNに行ったわけではなく、その前段階として「本気でデジタル化をやろう」という決断がありました。

【連載】「Jの金言」はこちら
【連載】「Jの金言」はこちら

順を追って話しますと、2014年にJリーグのチェアマンになって、まず半年かけてJ1からJ3まで全国の51クラブ(現在は58クラブ)を回ったんですね。足を使って、「村井と申します。よろしくお願いします」という感じで。

クラブによっても地域によっても経営観はかなり違って「これを一つにまとめるのはなかなか大変だな」と思ったわけですが、共通して感じていたのは「どのクラブにもピカピカなハイパーデジタルエンジニアはいない」ということでした。

ホームページもクラブによってまちまちでしたが、スマホとPCの最適化がされていないのでスマホで見るときは(親指と人差し指を開く仕草をしながら)こうやって、パソコン画面を拡大しなくちゃならないとか、Jリーグのホームページのデータを参照して作っているんだけれど、そこからの転記ミスが起きているとか。(検索結果で自分のサイトが上位に表示されるようにする)SEO(検索エンジン最適化)なんかも、十分ではありませんでした。

デジタル化が一気に進んだ「決定的な事件」

ネットでチケットを売ったり、ユニフォームなどのグッズを売ったりする通販・物販機能もほとんどありませんでした。

Jリーグのクラブにはサポーターから電子メールや手紙でいろんな意見が寄せられたり、イベントの申し込みハガキなどが卓上に山積みされていたりするのですが、そうした個人情報の管理みたいなところも、ちょっと危なっかしいところがあって。

そういった部分を「Jリーグで請け負いましょう」という感じで、51クラブとJリーグの間に土管を通してデジタル・プラットフォーム的なものを作れば「クラブに貢献できるんじゃないかな」という思いが、おぼろげにありました。

――そこに決定的な事件が起こります。

【村井】2014年の6月ですね。上野の森美術館で「ボールはともだち。キャプテン翼展」というのがあって、Jリーグもコラボすることになったんですが、「じゃあ何ができるか」と考えていた時にJリーグメディアプロモーションの若手の面々が、YouTubeに1本の動画をアップするんです。