W杯カタール大会で、日本は優勝経験国のドイツとスペインを下しベスト16で大会を終えた。日本サッカーはなぜここまで強くなったのか。Jリーグのチェアマンを4期8年務め、2021年度までの8年で営業収益を2倍以上に増やした村井満さんに、ジャーナリストの大西康之さんが聞いた――。(第9回)

モットーは「都合の悪いことは世の中に晒す」

――村井さんは「魚と組織は天日に晒すと日持ちが良くなる」というポリシーのもとにJリーグを改革していきます。その中で生まれたのが『PUB REPORT』。いわばJリーグの「アニュアルレポート(年間事業報告書)」ですね。

【村井】2014年にチェアマンに就任した次の年、2015年のシーズン終了直後に最初のPUB REPORTを出しました。最後の試合が終わった1週間後には最終の原稿を入稿して、出来上がった冊子をJリーグの関係者に配ると同時に、ネットでPDFを即日公開しました。

【連載】「Jの金言」はこちら
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以前にも言いましたが、プロ選手の経験も、チーム運営の経験もないチェアマンですから、「ミスをしない」のは難しい。いろんな失敗をするだろう。そういう失敗は隠していると袋だたきに遭います。都合の悪いことは、できるだけ世の中に晒して、フィードバックをもらって立て直したほうが良い結果が得られます。

人間の体も同じで、「ホメオスタシス(恒常性)」なんて言いますが、体温が上がれば発汗して体温を下げる。血糖値が上がればインスリンが分泌されてそれを下げる。「体温が上がったよ」「血糖値が上がったよ」という情報が全体に伝わることで、外部環境が変わっても体内の状態を一定に保つ働きがあります。この情報がうまく伝わらない時、人間は病気になります。

日本サッカーの弱点を徹底的に検証

【村井】「すべての犯罪は密室で起きる」とも言われます。人間の社会では情報が隠蔽いんぺいされ、フィードバックが止まった時に、問題が起きます。だから新米のチェアマンとしては「晒していく」ことを決め事にしました。

PUB REPORTを作るときも「Jリーグにとって都合の良いことばかり書くのではなく、課題や問題もどんどん書いてほしい」とお願いしました。

――数ある『PUB REPORT』の中でも「晒す」意識が最も強く出たのが2016年夏号ですね。「世界とのギャップ」と銘打って、Jリーグ、日本サッカー界の弱点を徹底的に明らかにしました。

【村井】チェアマンに就任してすぐの2014年6月のW杯ブラジル大会の予選リーグ。日本は1分け2敗の勝ち点1のグループ最下位で敗退しました。得点はコートジボワール戦とコロンビア戦で上げた2点だけ。2010年の南アフリカ大会で決勝トーナメントに進んでいただけに、サッカー界もファンも大きなショックを受けました。これはもうPUB REPORTも1年に1回などと悠長なことは言っていられない。日本と世界の差は縮まっているのか広がっているのか。差があるとしたら何が原因なのか。徹底的にサーベイしました。