「パスが秒速1メートルも違う」衝撃的なデータ

【村井】例えば当時、イングランド・プレミアリーグの年間営業収益は6044億円でその半分以上、つまり3000億円以上を放映権収入から得ていました。Jリーグの収益は937億円で、放映権料は50億円でした。60分の1です。

クラブの営業収益を比べてもスペインのレアル・マドリードの793億円に対し、浦和レッズは61億円。その上でスペインは営業収益の62%、イングランドは61%を人件費に当てている。日本は44%です。欧州サッカーはクラブが莫大な収益を上げ、その資金で優秀な選手をかき集める。魅力的な選手がたくさんいるから観客が増え、さらに収益が上がるという好循環ですが、日本はそれができていませんでした。

プレミアリーグのスタジアムは100%がサッカー専用でしたが、Jリーグは58%。残りは陸上競技場との兼用でした。イングランドではプレミアの下の2部も100%サッカー専用でしたが、日本はJ2になると22%しかない。U18(18歳以下)世代のメキシコ代表は年間100試合の国際試合をこなしているが日本代表のU18は41試合。

競技レベル、すなわちプレーの中身に目を向けましょう。Jリーグの平均と、スペインの強豪レアル・マドリードのヨーロッパ・チャンピオンズリーグでのスタッツ(統計)を比較しました。ミドルパスのスピードはJリーグの毎秒11.37mに対し、レアルは毎秒12.22m。1試合のシュート数はJリーグの12本に対し、レアルは17.1本。レアルはパススピードが秒速で1メートルも早いのでパスの成功率が高く、その結果、シュート機会が増えてスペクタクルなゲームになっているのです。

批判を浴びた2ステージ制にも向き合った

――いやはや身も蓋もないというか。愕然とする差ですね。

【村井】いかに日本のサッカーがいけてないかをデータで示すわけですから、これを開示するのは当然「痛い」です。痛いけど、その痛みの先に成長があるのだと思います。圧倒的な差を認識した上で、「だったらどうする」と現実的な議論が始まるのです。

私がチェアマンになった時にはすでに決まっていたのですが、Jリーグは2015年に2ステージ制を導入しました。賛否両論が渦巻き、1stステージでは浦和レッズが優勝したのですが、多くのサポーターが2ステージ制に反対していて、表彰式のアナウンスがブーイングでかき消される、というシーンもありました。

2ステージ制が良いのか悪いのか、議論をするための材料が必要だと思ったことが、PUB REPORTを作るきっかけになりました。2ステージ制になってテレビの視聴率はどうだったのか。メディアの露出や観客動員数は増えたのか減ったのか。良いことも悪いことも、すべてデータで示して議論のたたき台にしようと考えたのです。