W杯カタール大会で、日本は優勝経験国のドイツとスペインを下しベスト16で大会を終えた。Jリーグのチェアマンを4期8年務めた村井満さんは、キャプテンのDF吉田麻也選手を「彼の本当の凄さは、成長のために新しい環境を求め続けるところ」と評価する。ジャーナリストの大西康之さんが聞いた――。(連載第10回)
W杯カタール大会から帰国し、記者会見するDF吉田麻也選手(=2022年12月7日、千葉県成田市)
写真=AFP/時事通信フォト
W杯カタール大会から帰国し、記者会見するDF吉田麻也選手(=2022年12月7日、千葉県成田市)

海外の記者に囲まれても堂々と英語で対応

――W杯カタール大会の予選リーグでドイツ、スペインを撃破した日本代表は世界中のメディアの注目を集めました。試合後、選手たちは海外の記者たちに囲まれていましたが、一人も通訳をつけず、英語、スペイン語、ドイツ語などそれぞれがプレーしている国の言葉で流暢にやりとりしていて、サッカー以外の面での人間的な成熟を感じました。特にキャプテン、DF吉田麻也選手の英語の受け答えは素晴らしかった。

【村井】海外に出ることを意識していた吉田選手はまだ日本にいる頃から一生懸命、英語を勉強していたといいます。イングランド・プレミアリーグのサウサンプトンに移籍したのが2012年。その後イタリア、ドイツと渡り歩き、もう10年、欧州でプレーしています。当然、日々のインタビューは英語でこなしています。

日本代表として活動しているとき、食事の時間になると吉田選手はテーブルに堂安律選手やシュミット・ダニエル選手といった若手を集め、即興で英語のレッスンが始まると言っていました。そうした面でも一目置かれるキャプテンなんですね。

自身の長所を「弟力」と表現している

――W杯ロシア大会を最後に、代表を引退した長谷部誠選手に代わって2018年に代表のキャプテンに就任し、4年間、チームを牽引してきました。キャプテンシーの塊のような長谷部選手の後任は難しかったと思いますが、ベテランと若手の架け橋となって、うまくチームをまとめてきたように見えます。

【連載】「Jの金言」はこちら
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【村井】もちろん優れたキャプテンであることには誰も異存はないでしょう。ただ、面白いのは、彼自身が自分のいちばんの長所を「弟力」と表現しているんです。

東京五輪が始まる前ですが、日本代表になるような選手というのは人間的にはどんな人たちなのかを探るために、Jリーグの副理事長をやってもらっていた原博実さんと一緒にヨーロッパを周り、吉田選手、長谷部選手のほか、岡崎慎司選手、川島永嗣選手、長友佑都選手、香川真司選手らにロングインタビューを試みたことがあります。

吉田選手はサウサンプトンの港にある静かなレストランを予約してくれて、そこで彼の生い立ちから現在に至るまでたっぷり話を聞くことができました。

――吉田選手は長崎市で子供時代を過ごしていますね。

【村井】小学6年生まで長崎の親元で暮らしていたそうです。彼にはお兄さんがいるのですが、たまたま家族で名古屋に行くときに、その兄が名古屋グランパスでジュニアユースのセレクションがあることを見つけたそうです。弟の彼は「どうせ受からないだろうけど、記念に」と受けてみたらなんと合格してしまったのだそうです。