日本代表の仲間たちのためにも「弟力」を発揮

【村井】麻也という名前には「麻のようにもまれて強くなれ」という意味が込められているそうです。吉田選手は常に境界を超え、新天地でもまれて強くなっていった。そうやってキャプテン吉田麻也は育ってきたのですね。

――日本代表のキャプテンになった吉田選手はJリーグチェアマンの村井さんはじめサッカー関係者に対しても「弟力」全開で、いろんなお願いをしてきたそうですね。

【村井】最近でいうと、アジア最終予選でオーストラリアに勝って7大会連続のW杯出場を決めた試合の帰り。私は吉田選手と同じ飛行機で帰国したのですが、空港で吉田選手は「W杯出場を決めたのだから、帰ったら選手の家族を集めて慰労会を開いてほしい」と協会関係者に交渉していました。海外クラブでプレーする選手の場合、代表の合宿は主に日本。W杯予選ではアジア各国を回るので、家族にもかなりの負担がかかります。そこを「配慮してほしい」と選手を代表してのお願いでした。

英国は勲章をもらえるが、日本は花束で終わり

【村井】10年間、欧州でプレーし多くの経験を積んできた吉田選手からはさまざまな提言をもらいました。例えば日本のトップ選手の育成はU-18で終わってしまうが、イングランドはU-21までしっかり育成している。日本ではプロになったらあとはクラブ任せになってしまうが、世界で戦うチームを作るにはポストユースの育成が大切だ、と吉田選手は言っていました。

指導者についても、イングランドではU-18に選ばれると自動的に「FAレベル2」という指導者の資格が付与される。日本ではA級、S級の指導者資格を得るには、現役を引退したあとかなり時間をかけて講習を受けなければならない。

また、選手のけがの履歴について、日本では選手に紙のフォーマットを書かせてJリーグと日本サッカー協会(JFA)が別々にそれぞれ管理している。「ITを使ってシームレスにすれば、選手の健康管理をよりスムーズに行える」というのが吉田選手の主張でした。

いちばん、吉田選手らしいな、と思ったのは勲章の話です。イングランドでは代表キャップ(選出)が100試合を超えた選手にMBE(大英帝国勲章)が与えられ、「Sir(サー)」の称号が付与される。国の代表として戦ったことがきちんとリスペクトされ、それがフットボールの文化の一部になっている。「日本では花束をもらって終わりですから」とご立腹でした。