憲剛選手のシュートを大久保選手が打ち返したら…

――日本中のサッカー小僧を熱狂させたあの動画ですね。

【村井】そうです。『キャプテン翼』に出てくる「反動蹴速迅砲」。

――漫画では、中国ユース代表のエース、肖俊光の必殺技で、相手のシュートを至近距離から蹴り返してゴールを決める大技です。シュートの威力の凄さは龍の絵の弾道で描かれています。まさに漫画の世界ですよね。

【村井】Jリーグメディアプロモーションの若手が川崎フロンターレの練習グラウンドに行って、中村憲剛選手と大久保嘉人選手に「あの技、できませんかね」と持ちかけました。2人が話に乗ってくれて、憲剛選手が蹴ったシュートを大久保選手が打ち返す。これが漫画みたいに成功して見事にゴールネットを揺らしちゃう。憲剛選手も「今の反動蹴速迅砲だよね」と驚くわけです。

それだけの動画なんですが、これが1週間で400万回再生された。他にも「カミソリシュート」や「ツインシュート」に挑戦したJリーグ選手たちの動画がアップされて、再生回数は3本で1000万回を超えてしまったのです。

それだけではなくて、今でもYouTubeで「反動蹴速迅砲」と検索してもらえば、山ほど出てきますが、日本中の中学、高校のサッカー部の子たちが真似をして、動画をあげています。ちょっとした社会現象になりました。

お金もかかっていない、アイデアの勝利だった

――議論し尽くしてとか、考え抜いてという感じではないですね。

【村井】もちろん考えてはいたんですよ。Jリーグも発足から10年以上がたって、ちょっとしたことではテレビも取り上げてくれません。ネットといっても、当時はスカパー!(スカパーJSAT)が試合の放映権を持っていたので、Jリーグは試合の映像も許諾なくしては使えない。「どうしたもんだろう」と。

「自分たちで使えるコンテンツ、メディアを持ちたい」という思いはありましたが、さてどう作ったものか。まだ手探りの状況でしたから、いきなり1000万回という数字を聞かされた時、私は腰が抜けるほど驚きました。

村井満さん
撮影=奥谷仁
村井満さん

――動画を見る限り、あまりお金はかかっていないようです。

【村井】かかってないでしょうね。憲剛選手と大久保選手に協力してもらって、場所も川崎フロンターレの練習グラウンドですから。まさにアイデアだけ。やんちゃな若手のスタッフが「面白そうだから」と始めたもので、Jリーグの理事会で決めたわけでもなんでもない。

ただ結果としてチェアマンの私は、あれを見て「なんだ自分たちでやればいいのか」と背中を押され、思い切りデジタルプロモーションに舵を切るわけです。