菓子大手のシャトレーゼの社内には120人の「社長」がいる。シュークリーム社長やどらやき社長など、商品ごとの責任者が「社長」だ。なぜそうした経営体制をとるようになったのか。創業者の齊藤寛会長に、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。(第3回/全3回)
シャトレーゼ 齊藤寛会長
撮影=プレジデントオンライン編集部
シャトレーゼ 齊藤寛会長

経営のヒントは「ゴルフ場の再生」にあった

シャトレーゼは和洋菓子の製造小売りで知られるけれど、グループとしては他にワイナリー、ホテル、旅館、ゴルフ場も経営している。特にゴルフ場などは経営者の道楽でやっていると思われがちだが、シャトレーゼのそれはちゃんと事業として成り立っており、しかも、同社の経営戦略のひとつ、「プレジデント制」のきっかけともなった。

この連載のためにわたしは山梨県にある本社に出かけた。1時間40分ほどインタビューをしたのだが、ゴルフ場経営について聞いた時、会長の齊藤寛は初めて「それ、とてもいい質問ですね」と言った。

きっと、それまでに聞いたことは取るに足らない質問だったのだろう。

深く反省しながら、その場で彼の説明を聞くことにした。

「私が66歳の時、ちょうど2000年頃です。一度、経営を後継者に譲ることにしました。それまでワンマン経営でやっていましたから、そばにいると、口を出すことはわかっていました。それで、北海道へ行くことにしたのです。

岩見沢に近い栗山町という人口1万人超の町にゴルフ場があったのですけれど、これがつぶれそうになっていて再建してくれと頼まれたわけです。僕はお菓子だけでなくゴルフ場もできるぞというところを見せてやりたくて。それで出かけていくことにしました。

町から離れた丘の上のゴルフ場で設備は豪華でした。でも、競争相手がいくつもあって、とにかく人が来なかった」

まずは「ゴルフをしない客」を呼び込んだ

「再建するためにやったのは、まず、ロビーや玄関の造作を取り外してシャトレーゼの店を作ったんです。それだけで多くの人がやってくるところになりました。また、レストランを夜まで開けました。通常、ゴルフ場のレストランは昼だけです。しかし、おいしいディナーを出すことでゴルフをやらない人もやってくるようになりました。ちなみに、今は19のゴルフ場をやっています。いずれも再生させて皆さんに楽しんでいただいています。

どのゴルフ場でもデザートとサラダは無料です。途中の売店にはアイスクリームも置いてあります。これももちろん無料。ゴルフ場の再生といえばゴルフをやる人だけをお客さまとして考えて、会員をなるべく多く集めようとしたものばかりですけれど、私はゴルフをしない人にも来てもらって飲食の売り上げを高めていったのです」

世の中にゴルフ場経営者は数多い。しかし、ゴルフという業界の枠組みのなかだけでビジネスを考える。会員権収入やゴルフプレーヤーを集客して売り上げを伸ばそうとする。だが、アウトサイダーの齊藤は自分の強みであるシャトレーゼの商品を活用した。そうして飲食の売り上げを伸ばし、ゴルフ場をヒット商品に仕立てたのである。