値上げラッシュの中、菓子大手のシャトレーゼはいち早く「値上げをしない」と宣言して話題を集めた。そこにはどんな意図があるのか。創業者の齊藤寛会長に、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。(第1回/全3回)
シャトレーゼ本社
写真提供=シャトレーゼ

シャトレーゼは単なる「洋菓子販売」ではない

シャトレーゼグループの従業員数は連結で約3000人、売上高は同じく連結で1100億円。連結決算の対象は菓子、ワイナリー2カ所、ホテル4カ所、ゴルフ場19カ所(2021年3月期)だ。洋菓子、和菓子、生ワインなどを売る小売り店舗数は700店。うち600を超える店舗はフランチャイズである。

シャトレーゼグループはコロナ禍をものともせず成長している。2015年の売り上げは540億円だったのに、6年後の21年は1100億円。急成長といっていい。

グループの柱となる株式会社シャトレーゼのことをメディアは「洋菓子販売」と単純に表現しているが、それは正確とは言えない。

連結決算に見るようにグループにおいては菓子とワインなどの他、ホテル、ゴルフ場を経営している。また、菓子事業において菓子類は単に製造しているだけではない。通常、菓子、の流通は製造工場から問屋へ行き、そこから店舗へ配送される。シャトレーゼは自社製造工場で作った商品を問屋を通さず、直接、小売店に運んで販売している。衣料品の世界で言うSPA、つまり製造小売業だ。

物流もまた自社で行い、製造から販売までのリードタイムを短縮している。むろん、工場でも製造ラインやラインの間のムダをなくして、ジャスト・イン・タイムで製造している。通常のスイーツの場合、製造してから販売まで5日間はかかるのが標準だという。だが、同社の生菓子は「作ってからお客さまが食べるまでは2日間」と決めて、実行している。

加えて、同社は「家業的経営」を標榜し、組織を小集団に分けて、トップに社長(プレジデント)を置いている。シュークリームの製造ライン統括者はシュークリーム社長であり、店舗数店を統括する営業責任者もまた地区統括の社長だ。

つまり、シャトレーゼはユニクロのようなSPA(製造小売業)であり、トヨタが誇るジャスト・イン・タイム生産を実行し、稲盛和夫の小集団経営手法「アメーバ経営」を活用している。

ユニクロとトヨタと稲盛和夫のいいところをうまく移植した複合企業がシャトレーゼだ。山梨県の田園風景のなかで、のんびりシュークリームやどら焼きを作っているお菓子屋さんではない。

では、そんな会社はどうやって次々とヒット商品を生み出しているのか。