値上げはしないが給料は上げる

同社創業者、88歳の齊藤寛会長に甲府市郊外の本社兼工場で話を聞いた。老齢という印象の人ではない。胸板が厚く、日に焼けていて精悍せいかん。生命力にあふれる人だ。むろん現役の経営者である。

シャトレーゼ 斎藤寛会長
撮影=プレジデントオンライン編集部
シャトレーゼ 齊藤寛会長

第一声は「値上げはしない」だった。

「ロシアのウクライナ侵攻以降、小麦は20パーセント、油脂類は5割上がっています。他の材料も値上げされている。それでも、当社は商品の値段を上げることはしません。お客さまは給料が上がらないのです。それなのにお客さまに負担をかけるのは申し訳ないからです」

商品の値段を上げないためにやることは製造段階、物流工程のムダを省いたり、改善してコストを下げたりするという。加えて電気、水道などを節約し、包装の簡素化を進める。

同社は「値上げをしない」と宣言しただけではない。同時期に「社員の給料を10パーセントアップする」とも発表している。

ワークウエアのワークマンをはじめ、物価高でも値上げを凍結した会社はある。しかし、同時に社員の給料アップを断行したのはシャトレーゼだけではないか。

本心から「お客さまのため」を考えている

齊藤会長は言った。

「物価が高くなった今だからこそ給料を上げなくてはならないのです。うちの給与の平均は少し前は年間580万円くらいでしたが、今は620万円にはなってます。ゆくゆくは800万円にはしたい。山梨県ではトップレベルの給与水準をめざします」

インタビューを行ったシャトレーゼの本社は決して新しくはない。節電しているから廊下は薄暗い。しかし、内部は掃除が行き届いていて清潔そのものだ。

食品企業であり工場も併設されているから、衛生管理に厳しい。オフィスへ入るには入り口で室内履きに履き替えなくてはならない。

履き替えるために下駄箱を見たら、会長と社長(齊藤貴子 会長の次女)の外履きの靴が並んでいた。失礼ながら、どちらも高級ブランド品ではなかった。会長、社長ともかなり使い込んだウォーキングシューズだった。

わたしは感心したし、「なるほど」と思った。

会長、社長ともに質実だ。ヒット商品のツートップ、シュークリームやバターどら焼きの価格を上げないために、ふたりとも贅沢とは言えない生活をしているのである。

齊藤寛は本心から「お客さまのため」を考えている。だから値上げしないと決めた。