赤字に耐えるという覚悟がいる
齊藤は思い出す。
「できたことはいいのですが、また問題にぶち当たりました。町の小売店にはシュークリームを保存する冷蔵ケースがなかったのです。かといって小売店に冷蔵ケースを配る予算はありません。
どうしようかと悩んだ時、ふと思いついたのが店頭に置く時間を短くすること。店頭に長く置かない工夫をすればいい。それなら冷蔵ケースはいらない。そこで思い切って安い値段にしたのです」
彼はシュークリームを1個、10円にした。ガム1個の半分だ。売れないはずがない。
冷蔵ケースのない小売店に250個単位で卸したところ、瞬く間に売り切れて、追加注文が殺到した。
1967年、社名をシャトレーゼにした年、初めての大ヒット商品が誕生したのである。
ただし、値段が安いから当初は利益が出なかった。2年目になって1日に7万個を作れるようになってからやっと儲けが出た。それまでは赤字に耐えながら会社を経営していたのである。
ヒット商品を作るには赤字に耐えるという覚悟がいる。
ジャスト・イン・タイムの発見
ただ、シュークリームというヒット商品が生まれたことで問屋との付き合いができ、アイスクリームの販路を確保することができた。お荷物だったアイスクリームも利益を生んでくれるようになったのである。
ヒットの理由はいくつもある。
なんといっても値段を安くしたことだ。同業者の5分の1だから競争力は圧倒的である。値段を下げた結果、飛ぶように売れ、結果として店頭に置いてある時間が短くなった。
齊藤は製造と物流におけるジャスト・イン・タイムの価値を知った。最後は赤字に耐える力だ。爆発的に売れることを予想し、薄利でシュークリームを製造したのである。
1個10円という値段は原価を積み上げてはじき出した値段ではない。経営者がリスクを背負い、赤字を覚悟して商品に賭けた意気込みで付けた常識破りの値段だ。だから、売れた。
齊藤はシュークリームというヒット商品を生んだだけではない。シュークリームを手始めにして、ヒット商品を生み出す経営を確立したのだった。(第2回に続く)