「おいしい」だけではヒットしない

齊藤の話を聞いてると、ヒット商品とは「おいしいだけではダメ」だとわかる。おいしいに加えて、さまざまな要素が必要だし、また、開発チームが優秀なだけでもヒットは長続きしない。ヒット商品を長く売っていくには経営の力が必要だ。

シャトレーゼ最初のヒット商品、シュークリームが好例だ。シュークリームの製造を開始したのは半世紀以上も前の1967年で、今も売れているヒット兼ロングセラー兼定番商品である。

値段は1個、100円。コンビニで同じようなシュークリームを買おうとすると、180円程度になる。町の洋菓子店だったら250円はする。

シャトレーゼのヒット商品は同業他社と比べると格段に安い。

シュークリームと並ぶヒット商品、バターどら焼き(1個129円)、粗搗あらづき大福(1個108円)もまた同種のそれより安い。

良質の材料を使用し、製造から販売までが短いからシャトレーゼの商品は新鮮だ。新鮮で安いから売れるのは必至だ。

始まりは「アイスクリームが売れない」だった

しかし、新鮮で安い商品を作るのは簡単にできることではない。ヒット商品を生む方法について、齊藤は次のように語った。

「シュークリームは自社製アイスクリームが売れなかったからこそできたヒット商品なんです」

齊藤が仕事を始めたのは1954年、彼は20歳だった。「甘太郎」という今川焼きのような、あんこが入った焼き菓子の店を甲府市内でオープンした。

「甘太郎」の前で。中央が齋藤寛会長。
写真提供=シャトレーゼ
「甘太郎」の前で。中央が齊藤寛会長。

焼きたてを売る菓子だから、冬場は売れるが、夏はパッとしない。店の数は増えたが、夏の売り上げが上がらないという問題は解決できないままだった。

そこで齊藤は夏向けの商品、アイスクリームの製造と販売に手を付けることにしたのである。

ちょうど叔父が東京で国会議員会館などで食堂経営をしていた。かたわら、アイスクリームの製造をやり、喫茶店やレストランに卸していた。叔父が「工場が狭い。もっと広い工場を作りたい」と言っていたので、齊藤が勝沼(山梨県)に新工場を建てることにしたのである。