菓子大手のシャトレーゼは、フルーツや鶏卵といった原材料の多くを生産者から直接仕入れている。それは市場には「本当においしい素材」がないからだ。おいしい菓子づくりのために直接仕入れを増やした結果、質の高い商品を安価に提供できるようになったという。創業者の齊藤寛会長に、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。(第2回/全3回)
シャトレーゼ 齊藤寛会長
撮影=プレジデントオンライン編集部
シャトレーゼ 齊藤寛会長

「製造→問屋→小売店」の常識を覆した

シャトレーゼがシュークリーム、バターどら焼き、あらき大福といったヒット商品を連発し、会社全体を成長させているのは経営力だ。食のヒット商品は「おいしい」だけでは生まれない。シャトレーゼは開発した商品が確実に売れるように、仕組みを整えている。

同社の商品は他社のそれよりも安い価格で売ることができる。それは問屋を排してその分のコストを削減しているからだ。

通常、洋菓子、和菓子の流通はメーカー、問屋、小売店という3つの業態が連携して行う。ところがシャトレーゼは自社で製造したものを問屋は通さず、直営もしくはフランチャイズの店舗へ自社で配送して売る。中間経費がなくなるから、小売りの値段は安くなる。

「それなら他のメーカーも問屋を通さなければいいじゃないか」

そう思われるかもしれないけれど、従来、問屋を通して売っていたのを「すみません、明日からやめます」とは言えない。

シャトレーゼは最初から問屋を通さない形でシュークリームというヒット商品を産んだから、製造小売りとして成長することができたのである。

創業者の会長、齊藤寛は「工場直売を始めたことも大きかった」と言う。

値引きを断ったら、取引を切られてしまった

「1984年、新しく工場を建てる(現在の本社工場)ことにしました。ところが、新工場の建設中に、当時、主力だった勝沼工場が火災で全焼したのです。悪いことは重なるもので、営業面を担当していた弟(専務)が心臓病で急死しました。そのうえ頼りにしていた工場長もがんで亡くなってしまいました。さらに経理を担当していた妹も病気の治療に専念することになり……。さすがに私も頭を抱えました。血尿が出て、疲労困憊こんぱいしましたが、何とかしなきゃいかん。

営業をやっていた弟がいなくなったから、小売店の棚からうちの商品がどんどんなくなり、他社の商品に切り替わっていきました。

当時はまだ売り場を持っていません。洋菓子の製造メーカーでした。売り場を持たないメーカーというのは立場が弱い。

大規模な小売店から『取引を続けたかったら、協力してもらわなきゃ困る』と言われ、販売協力費という名目の寄付を頼まれたり、500万円もする腕時計を買わされたりしました。理不尽だと思いました。

ただ、それよりつらかったのは、値引きです。一生懸命作った商品を安く納入しろと言われるのです。しかし、うちはすでにコストを切り詰めてやっている。それ以上、安くすることは質を落とすことになる。それで値引きを断ったら、取引を切られてしまいました」