そのひとつが洋菓子の製造に不可欠な鶏卵である。一般に洋菓子の製造工場は液卵を使用する。液卵とは鶏卵を割り、混ぜた状態のものをいう。通常は液卵を使い、小麦粉、バター、砂糖と混ぜてケーキの生地を作る。ただ、液卵は割ってから混ぜるという工程があるから、鶏が産んでから時間がたっている。

新鮮さ、ジャスト・イン・タイムを価値と考えている齊藤の思想とは合わない。

他社と決定的な差をつける果物へのこだわり

そこで、1990年頃から生産者(養鶏場)と話して、鶏卵を直接仕入れることにした。仕入れた卵は割卵機(卵を割る機械)で割り、黄身と白身を混ぜる。1分間に約500個の卵を処理することができ、今では毎日、18トンの鶏卵を契約農家から仕入れ、処理している。

鶏卵だけではない。洋菓子製造に欠かせない牛乳は八ヶ岳の野辺山高原にある契約農場から直接仕入れている。

果実類もまた近在の生産者が作ったものだ。一方、あんこの原料になる小豆は北海道、十勝地方の農家と契約し、直接仕入れている。

ファーム・ファクトリー構想で仕入れた原材料のなかでも他社の商品との味の違いが顕著に表れるのが果実類だ。

通常であれば桃、いちご、ぶどうといった果実は収穫した後、農協が管轄している共選所へ運んで選別する。共選所から卸売市場、小売店、スーパーマーケットへ持っていくので、収穫時から店頭に並ぶまでには2日から3日はかかる。果物は本来、完熟したほうが甘みが増しておいしくなる。しかし、完熟した果物は運ぶ際に傷がつくので、従来の共選所ルートでは早めに収穫した熟していない果物を流通させるしかない。

一方、シャトレーゼは契約した近在の生産者から直接、工場へ持ってくる。すべて完熟した果物だ。同業他社が製造した果物を使った洋菓子とは味が違うのである。

フルーツの載ったケーキの製造工程
撮影=プレジデントオンライン編集部

今の流通の仕組みでは「食べごろ」を出せない

齊藤は言う。

「完熟の果物で洋菓子、和菓子を作れば早採りしたものよりも甘みがありますし、風味が違います。ですから、売れるのです。

完熟の果物については生産者のみなさんも喜んでいます。おいしいものをおいしい状態で使ってもらえるのはありがたい、と。

問屋を通した今の流通の仕組みがあると、食べごろのものを出せないのです。私はそれがおかしいと思い、ファーム・ファクトリーを始めました。

あんこの原料になる小豆の生産、流通についても生産者のみなさんと話をして改革しました。当社では北海道のエリモショウズという品種の小豆を使っているのですが、エリモショウズは連作することができず、一度、作付けしたら、同じ畑で作るには7年間、別の作物を植えなくてはなりません。効率が悪いので、エリモショウズは年々、作付面積が減っていたのです」