北海道のコンビニといえば「セイコーマート」だ。道内全179市町村中175市町村に店があり、業界最大手セブン‐イレブンの120を超える。なぜセコマは過疎地にも出店できるのか。北海道新聞の浜中淳記者の著書『奇跡の小売り王国「北海道企業」はなぜ強いのか』(講談社+α新書)からお届けする――。(第1回)
北海道札幌市のセイコマートコンビニエンスストア
写真=iStock.com/winhorse
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異彩を放つコンビニ「セコマ」の神対応

北海道南西部で18年9月6日午前3時過ぎに発生した最大震度7の北海道胆振東部地震は、道内全域が連鎖的に停電する〈ブラックアウト〉を引き起こした。

この未曽有の事態によって道内の生活インフラは一時的に麻痺し、チェーンストアは通常営業ができないだけでなく、主力商品を〈作れない〉〈運べない〉苦境に直面した。

中でも、高度なシステム化が裏目に出たのがコンビニだった。

ナショナルチェーンの店頭には、地震から1週間たっても、弁当が満足に並ばない状態が続いた。本部が全国の契約工場向けに定めている弁当の規格に、北海道内の工場が十分対応しきれなかったからである。

たとえば、漬物工場の稼働が遅れたため、他の食材はすべてそろっているのに、本部の定めた『幕の内弁当』として販売ができないといったケースが続いた。全国どの加盟店にも同じ商品を用意するのは、フランチャイズチェーン(FC)制度の基本ルール。停電の影響でたった一つのパーツが欠けるだけでも、契約上、商品として売ることはできない。その厳格さが、皮肉にも緊急時の商品供給の妨げになった形である。

こんな時にも異彩を放つコンビニがセコマだ。

ブラックアウト下の9月6日早朝から、大半の店が営業を開始。店内調理設備『ホットシェフ』が併設されている店舗のうち、ガス釜のある約500店では、従業員が急いで米を炊き、おにぎりを握って販売した。

昼過ぎにはおにぎりの具材が底をついたが、客の行列は途切れない。そこで、通常メニューにはない塩と白米だけの“塩にぎり”をつくり、提供を続けた店もあった。

大手コンビニの真逆を行く「セコマ」の強み

丸谷智保社長(1954-)=現会長=は地震発生時、東京に出張中だった。当日の午後に札幌に戻ると、従業員が自ら判断したとの報告を受け、「うれしかった。涙が出そうになった」という。

何もかもが契約、規格に縛られるナショナルチェーンと対照的に、直営店が大半を占め、臨機応変な対応をしやすい特徴が緊急事態で鮮やかに生きた。

全域停電中に1000店以上が通常に近い形で営業できたのは、東日本大震災(2011年)を教訓に、事前に大地震対策に手を打っていたからだった。ガソリン車につなぎ、エンジンをふかすと発電できる非常用キットを全店に常備。ガソリン満タンなら1日以上発電を続けられるという優れ物で、これによってレジを動かすことができた。

16年に建て替えられた釧路の新物流センターには、自家発電設備と3週間分の燃料備蓄機能を備えていた。胆振東部地震の震源地から離れていた幸運もあり、備蓄していた燃料を活用して自社物流網を維持できたという。