ブラックアウトのさなか、温かなおにぎりを出したセコマに対し、ネット上には〈神対応〉と称賛する書き込みがあふれた。それは偶然にもたらされたものではない。後述するセブンの特色である〈持たざる経営〉とは真逆のビジネスモデル、製造ー物流ー販売すべてを自社でコントロールするセコマ流〈持つ経営〉の底力の発露であったのだ。
北海道民に支持されるワケ
胆振東部地震の際にセコマが道民の支えになれた理由は、充実した店舗網にある。
道内全179市町村中175市町村に店があり、北海道の総人口の99.8%をカバー。店舗の数ではいい勝負をしているセブンも出店市町村数は120にとどまる。
セブンが店を出せない過疎地や離島でもセコマのオレンジ色の看板を見つけることができる。北海道においては、セコマこそが《お客様の生活拠点として「便利の創造」を続ける》コンビニだといえる。なぜセコマは地元住民に支持されているのか。
その理由は、セブンの〈変化対応〉のさらに上を行く〈変化を先取りする力〉にある。
道外の人がはじめてセコマの店に入って、まず驚くのが売り場に並ぶPB商品の圧倒的ボリュームだろう。同社が〈リテールブランド〉と呼ぶ自社開発商品は、加工食品、酒・飲料、日配品、総菜、冷食、菓子、日用品にまで及び、すでに1000種類を超えている。
さらに驚かされるのが価格設定で、500mlペットボトルのお茶が1本100円、おにぎりが1個100円、道産食材を使った総菜の小分けパックも1個100円……。100円ショップなのか、と言いたくなる安さだ。
もう一つの特徴が、丼物などの店内調理コーナー『ホットシェフ』である。できたてのカツ丼や豚丼が540円(店によって変動あり)とこちらも安い。北海道には商店や飲食店が成り立たないような過疎地が数多くあり、セコマがそうした地域の住民にとってのライフラインの役割を果たしているのだ。
セコマがPB商品第1号のアイスクリームを投入したのは95年、ホットシェフの展開を始めたのが94年のことである。セブン&アイグループのPB『セブンプレミアム』の登場が07年、ローソンの店内キッチン『まちかど厨房』の登場が11年……ということは、大手チェーンの取り組みを10年以上先取りしていたことになる。
天性の勝負勘を持つ経営者の手腕
日本のコンビニは、もともと24時間営業の利便性によって成長してきた業態である。
1990年代までは店を出せば売れる時代が続き、商品、価格、サービスは普通だった。ナショナルチェーンが独自商品の開発や多様なサービス展開に力を入れ始めるのは、21世紀に入り、店舗数が飽和状態になってからのことだ。
そうした中で、セコマは全国チェーンが10~15年後になって後追いするサービスにいち早く取り組んできた。興味深いのは、24時間営業は当初から重視せず、全店の2割程度にとどまることだ。近年、大手コンビニを悩ませている長時間営業問題は最初から存在していないことになる。