「持つ経営」で競争力を高めた

そのセブンも進出できないような北海道の過疎地、離島に店を出し、なおかつ都市部のスーパー顔負けの低価格を打ち出しているのがセコマというコンビニなのだ。

なぜ、そのようなことが可能なのだろうか。

セブン‐イレブン・ジャパンは、自らは資産を持たず、外部の専門業者へのアウトソーシングと分業で効率的なチェーン運営を行う〈持たざる経営〉で国内の頂点を極めた。対するセコマはそれとは正反対の〈持つ経営〉とでも呼ぶべき手法で北海道における競争力を高めてきた。

その象徴が、97年から03年にかけて約80億円の資金を投じ、釧路、旭川、函館、稚内、札幌、帯広の順に建設した自社の物流センターである。

北海道全域にいち早く自前の物流網を構築し、店舗への配送を自力で行う体制をつくり上げた。赤尾氏は社長時代の04年のインタビューで、その理由を「SKUの少ないコンビニは自前の物流システムを持ったほうが有利ではないかという考えがあり、思い切って投資した」と説明している。

北海道の過疎地ではセブン方式は通用しない

赤尾氏の発言の真意は、セブンの店舗配送と比較すると理解しやすい。

前節で触れた通り、セブンは店舗配送業務を20を超す物流企業に外注しており、専用の共同配送センターは、プラス20度で温度管理された〈米飯〉(弁当、おにぎり、焼きたてパンなど)、〈常温〉(酒類・飲料、カップ麺、菓子、雑貨類など)、プラス5度の〈チルド〉(サンドイッチ、惣菜、サラダ、麺類、乳飲料など)、マイナス20度の〈フローズン〉(アイスクリーム、冷凍食品など)の4温度帯ごとに施設が分かれる。各温度帯を得意とする物流企業が中心となって各施設の運営と商品配送を請け負う形である。

店舗への納品は、商品の回転が速く、消費期限の短い〈米飯〉が一日3~4回、〈チルド〉が一日3回、〈常温〉が週2~7回、〈フローズン〉が週3~7回の頻度で、ほかに雑誌などの出版物が取次業者の専用便で運ばれてくる。

各店舗への納品回数は原則、全国一律だ。温度帯や商品カテゴリーごとに決まった頻度で配送する仕組みはシステマチックで合理的だが、どんな環境下でも効率的に機能するとは限らない。非効率の典型が北海道の過疎地である。

施設を持ち、物流をコントロールするほうが有利

コンビニ1店当たりの商品数は、1アイテム1SKUを基本にトータル3000SKU程度。商品の種類は多いが、数は少ない。

北海道でも、札幌のように店舗の数が多く、物流センターから近い都市部であれば、商品カテゴリーごとにトラックを複数台に分けて運ぶことに問題は生じない。

ところが広大な北海道の多くを占めるのは、物流センターから遠く、人口密度の低さに比例して店舗の密度も低い地方の町村だ。

こうした地方の店舗向けにカテゴリー別の配送を行うと、トラックの荷台はほとんど埋まらず、燃料代ばかりがかさんでいくことになる。

この問題を解決するため、セコマは、遠隔地向けの配送は1台のトラックに各カテゴリーの商品を混載して一日1回、都市部は温度帯別に一日3回……などと店舗の立地やコストを勘案し、配送の仕方を変えている。

柔軟に配送方法を変えるには、自前の施設を持ち、自分たちで物流をコントロールするほうが有利だという考え方である。

「北海道では何でも自分でやるしかない」

セコマの〈持つ経営〉と北海道の事業環境は表裏一体の関係にある。「専門業者の少ない北海道では何でも自分で考えてやらざるを得ない」。赤尾氏は自らの発想の原点をそう述べている。