デジタルへの「一歩目のハードルをいかに下げるか」

現在、三菱UFJ銀行アプリの利用者が1000万人を超えています。メガバンクとしては異例のスピードだと受け止められています。

私たちには約3400万の個人口座がありますが、新規口座の獲得ではインターネット専業銀行に後れを取ってきた面があります。また、ご高齢のお客様を中心に「スマホは持っているが使いこなせる自信がない」という方が一定数いらっしゃいます。あるいは「現在の店舗やATMのサービスで不満はない」という理由から、デジタルに踏み出していただけないケースも少なくありませんでした。

ですから、この数字は単に「便利だから自然に広がった」結果ではありません。技術力だけでも説明がつきません。どうすれば一歩を踏み出していただけるのか。どんな設計や働きかけが、お客様の行動変容につながるのか。そこにこそ、私たちが最も力を注いできたポイントがあります。

アプリのUI(ユーザーインターフェース)・UX(ユーザーエクスペリエンス)や安全性については、もともと自信がありました。基本的な金融取引をアプリで完結できるよう、機能も着実に整えてきました。しかし、技術的に優れていることと、お客様が実際に使い始めてくださることは別問題です。課題は「一歩目のハードルをいかに下げるか」でした。

私たちには全国に有人の店舗があります。お客様の近くに「相談できる場所」があることは、大きな強みです。デジタル化が進んだからといって、この強みを切り離すのではなく、むしろデジタルとどう棲み分け、お客様との接点としてどう融合させるかが重要です。住宅ローンや資産形成のように、対面のほうが理解しやすいテーマもありますし、デジタルに不安のある方にとって「困ったら店舗で教えてもらえる」ことは大きな安心になります。

サービスの本質は、お客様の状況に応じて最も理解しやすい接点を選べるように整えることにこそあるのではないかと考えています。

もう一つ、行動変容を生んだのが「メリットの可視化」です。利便性だけでは、なかなか行動を変えてもらえません。やはり、「使ったほうが得になる」と実感できてこそ、お客様の背中を押すことができます。

そこで打ち出したのが、新しいリテールサービスブランド「エムット」です。「つかう」「ためる」「ふやす」「つなぐ」という人生のお金にまつわるシーンにおいて、カード・証券・信託など多様な金融機能を三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)一体で統合的に提供できるようにしました。私たちには、銀行・カード・証券・信託といった主要な金融サービスをすべてグループ内に備えているという強みがあります。それらを一つのサービスとして束ね、「使えば使うほど利便性と利得性が高まる」構造を自前で整えました。

MUFGではエムット開始に合わせて特別金利やポイント施策を矢継ぎ早に展開し、グループで一体となって体験価値を訴求しました。大きな組織ではどうしても縦割りの意識が生まれてしまいますが、今回は「エムット」を軸にグループのカード・証券・信託が同じ方向を向き、一丸となって動けたことがいい結果を生みました。

銀行は多くのお客様にとって最も身近なMUFGとの接点です。今回、銀行アプリを全面リニューアルし、カードの新しいポイントアッププログラムなどのリリースで、口座開設件数は上期で前年の約1.2倍に増えました。銀行がデジタル接点として機能し始めたことが、最初の大きな変化でした。

(構成=渡辺一朗 撮影=宇佐美雅浩)

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