始めたきっかけは「面白そうだから」

印刷代の高騰やネット通販の普及で、カタログ通販業界には逆風が吹いています。そんな中、当社の成長を牽引しているのはホテル事業です。

安野 清(やすの・きよし)
安野 清(やすの・きよし)
ベルーナ社長。1944年、埼玉県生まれ。埼玉総合職業訓練所を経て本田技研工業に入社。68年、印鑑販売で創業。77年友華堂(現ベルーナ)を設立、社長に就任。

2025年3月期のプロパティ・ホテル事業の売上高は約360億円。全体の17%を占め、アパレル・雑貨通販に次ぐ大きな柱となっています。

私がホテル経営に興味を持ったのは約20年前、渋谷・桜丘町の220坪の土地を取得したのがきっかけです。テナントビルを建てるか、それともマンションにするか。考えた末に「ホテルがいちばん面白そうじゃないか」と。最初はただそれだけでした。

もちろん私はホテル経営の素人です。現場で働いてくれたのは、全員、派遣スタッフでした。彼らにすべてを任せていましたが、それがうまくいってしまった。渋谷という立地がよかったのです。それでホテル事業の面白さに目覚め、赤坂、新宿と都市型ホテルをいくつか開業しました。

自信を深めたのは、その後です。07年、岩手・花巻温泉郷にあった旅館を買収しました。魅力ある場所でしたが、設備が古くて大赤字の状態でした。これをリノベーションし、庭もきれいに整備したところ、売上高は倍増。短期間で黒字化できたのです。そこで初めて「リゾートホテルもやれるぞ」と手ごたえを感じ、ホテル事業に力を入れることにしました。

なぜ未経験の事業で成功できたのか。よくそんな質問を受けますが、はじめから私は何の経験も持っていません。創業当時のビジネスは印鑑の訪問販売です。通販事業を始めたときも、カタログなんて作ったこともなかった。ファイナンスや化粧品販売も同じで、すべてゼロからのスタートが当たり前でした。ホテル事業もその延長線上なので、特別に気合を入れて決断したわけではありません。面白そうだな、という好奇心で始めたのです。

ホテル外観

「既存事業のノウハウは活かせたのですか?」と聞かれることもあります。例えば、通販事業で培った膨大な顧客データベースがホテルの集客に役立っているのではないか、と。それも、まったく関係ありません。

通販で化粧品を買ってくださるお客様に洋服をおすすめしても、ほとんど効果はありません。それぞれの事業は「幹」が違うのです。既存事業の顧客リストを他事業に活用できるだろう、という考えは通用しません。私自身、過去に何度も試しては失敗して、身をもってこの法則を知りました。ですから、カタログ通販とホテルは完全に別物として取り組みました。

ゼロからのスタートを恐れる理由はありません。むしろ、素人だからこそやりやすいです。素人は業界の常識にとらわれず、自由に動けるからです。

当社には、ホテルの専門家という意味での「プロ」はいません。事業を動かす中心人物は、未経験の社員です。そして、ホテルに詳しいコンサルタントやデザイナーなどの「プロ」には社外から協力してもらいます。

(構成=堀尾大悟 撮影=遠藤素子 写真提供(ホテル外観)=ベルーナ 図版作成=大橋昭一)

検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます

【関連記事】
「ネット銀行に勝てない」を覆し1000万人獲得…MUFG社長が語る「グループ連携」実現の裏側
銀行口座なのに銀行らしくない…三井住友「オリーブ」が大成功したワケ
超高級ホテルの下に「公立小」…関係者が多すぎる「東京ミッドタウン八重洲」のまとめ方
読者1111人調査 稼ぐ人ほど「空気を読まない」は本当か?
「法人用ノートPC」シェア1位…「東芝のお荷物事業」はなぜシャープで急成長できたのか