「良いものが売れる」実感を持たせる

かつて「東芝のパソコンブランド」として知られたDynabook(ダイナブック)が今、競合だったシャープの経営を支える存在に――。そんな一見、不思議な状況が生まれている。

2018年にシャープの傘下に入ったダイナブックは24年度に国内法人向けポータブルPC市場でトップシェアを獲得した(IDC Japan調べ)。25年10月のウィンドウズ10サポート終了を見据えた買い替え特需の追い風を捉え、同社の売上高は単独ベースで24年3月期の約1552億円から25年3月期は約2426億円に、当期純利益は約14億円から約122億円へ大幅に増加した。

技術・商品・生産を所管する島本肇執行役員はこう振り返る。

「我々は東芝時代からダイナブックにいるので、これまでに異なるカルチャーをいろいろ体験しました。シャープグループに入った当初は、東芝とはまったく異なるコストセービング主義に変わり、かつパソコンビジネスの浮き沈みも激しかった。今いるメンバーはかなり逞しくなったと思います。その後、シャープの経営体制の変更に伴い、市場やお客様優先の経営判断が行われるようになり、経営と現場の方向性が一致するのを体感できるようになりました。ウィンドウズ10のサポート終了に向けて良い製品を作っていったところで、相乗効果が働きました。正のスパイラルが生まれ、どんどん良い方向に回っていったと感じています」

赤字脱却の見通しが立たずに経営危機に直面していた東芝のパソコン事業は、18年3月期、営業損益が約96億円の赤字で、シャープへの売却額も約40億円と破格の安さ。いわば「お荷物事業」であったが、そこから現在の復活に至るには現場の「熱量」が重要だった。商品統括部の須田淳一郎統括部長が説明する。

「日本の企業ではウィンドウズ10の前のバージョンのサポートが切れたタイミングから、PCを4〜5年使って買い替えるサイクルがある程度できています。そのタイミングに向けて商品企画・開発を担当している我々の現場の空気は、もちろん業績を伸ばそうという意識もありますが、とにかく『使いやすいパソコンをお客様に届けてあげたい』という情熱や熱量が非常に強いです。『現行機はこうだけど、次はこういう製品を作ったらもっと使いやすくなるんじゃないか』――そういうことを日々議論しています。とにかくお客様のために良い商品を作れば後から業績はついてくる。その熱量が、正のスパイラルをつくる根本にあると思います」

生産・開発部門の社員には、量販店や展示会へ足を運び、顧客への営業にも同行するよう口酸っぱく勧めている。どんな製品が望まれているかのヒントを得られるのはもちろん、自分の作った製品を世の中の人に使われているのを目にすることが、「良いものが売れる」実感に繋がる。実感があれば仕事へのモチベーション、熱量は高まる。

「やらされ仕事」を消す徹底した背景の共有

社員の熱量を保つために重視するもう一つのポイントが仕事の納得感だ。ダイナブックでは毎週1回1時間程度、社長を含む約10人の経営幹部が集まる幹部会が開催され、親会社の方針や重要な課題などの情報共有が行われている。参加した幹部はその内容をその日のうちに、他の必要な情報や自身の考えも付加し部下に共有していく。

「幹部会で誰が何を言ったかと、なぜそんなことを言っているのかを伝えると、決定の背景がわかると同時に、現場で実際に起きていることとリンクして、情報の非対称性から生じるフラストレーションが取り払われます。部下は決定の背景がわからないと『なぜそんなことを決めたのか?』と疑問を持ってしまいがちですが、そこには理屈があるのできちんと教え、質問が来ればきちんと答える。『それはなぜなのか、どうしてなのか』が腹落ちするよう徹底しています」(須田氏)

たとえばある部品が不足気味で従来はA機種にはB社製の部品しか使えなかったが、それでは必要な数が集まらないのでC社製の部品を購買したい状況が発生したとする。そこで現場には「C社製の部品を評価せよ」という指示が出されるが、背景を知らないと「なぜ新製品開発の忙しいときに古い機種の評価をしなければいけないのか……」と不満につながってしまう。

(文=宮内 健)