「現金を引き出せる」が魅力にならなくなった

銀行は融通が利かない――多くの方が、そんなイメージをお持ちではないでしょうか。巨大な組織には部署間の壁があり、厳しい規制に縛られ、同じグループのサービスでもいちいち登録しなければならない。

三井住友カード代表取締役社長執行役員CEO 大西 幸彦氏
三井住友カード代表取締役社長執行役員CEO 大西 幸彦氏

そんなこれまでの「常識」を覆し、お客様にご支持をいただいているのが、「Olive(オリーブ)」です。銀行口座にカード決済、証券、ポイントなどを一つに集約した金融アプリで、サービス開始後、約半年で口座開設数は100万件を達成。2025年7月には600万件を突破しました。

SBI証券やカルチュア・コンビニエンス・クラブのVポイント等、他社と積極的に提携しているのもオリーブの特徴です。「SMBCグループのサービスを全部使ってください」という自前主義の発想から離れ、世の中の主要なサービスをまとめてつなげる。顧客視点を徹底したことも、お客様に支持される理由の一つだと考えています。

では、なぜ我々は変わることができたのか。背景には、2つの大きな変化がありました。

1つ目は「デジタル化」の進展です。インターネット、とりわけスマートフォンが登場したことで、これまで対面で行われたサービスが、次々にデジタルに移行していきました。金融で先行したのは証券で、次いで決済を担うカードも形を大きく変えていきました。

特に、加入時の申し込み方法が変化したことは大きな影響がありました。かつては銀行や百貨店、航空会社などお店に行って申し込むのが主流でしたが、だんだんネット経由の申し込みに移行していきました。そこで起こったのが、メジャープレイヤーの入れ替わりです。新規のお客様から行動が変わっていくので、既存のメジャープレイヤーは最初こそあまり脅威に感じないのですが、気がつけばネット経由で手軽に加入できるサービスに顧客が移動してしまっているという構造です。

この流れは銀行にも少し遅れてやってきました。我々が顧客の動きに気づいていない間に、ネットバンクの口座開設数は顕著に伸びていました。SMBCの口座に入金された給与が、その日のうちに全額ネットバンクに振り込まれる。「給与口座は素通りさせるだけ」という行動まで起こり始めたのです。

ここに2つ目の「キャッシュレス化」の流れが加わりました。18年に経済産業省が策定した「キャッシュレス・ビジョン」では25年までにキャッシュレス決済比率を40%にすることを目標に掲げました。そこから、新型コロナ禍もあってキャッシュレスの普及が進み、スーパーやコンビニなど日常生活での利用や、ネット通販が激増しました。

現金の時代、銀行口座は支店やATMでお金を引き出すためのものでした。キャッシュレス化が進むと、「お金を使う」ことはカードによる決済を意味するようになり、口座からお金を引き出す必要はなくなります。それまで金融機関は「店舗がベースにあって、デジタルサービスも提供する」という発想で事業展開してきました。しかし、デジタル化とキャッシュレス化が同時に進行すると、「デジタル・モバイルがベースにあって、必要に応じて店舗に行く」時代になります。原則と例外が逆転するのです。

この変化に強い危機感を抱き、対策を考え始めました。マーケティングチームで議論したのは、口座と決済を融合させること。バラバラになっている銀行口座やカード、証券等を一つのIDにまとめ、一カ所で住所変更したらすべてのサービスに反映されたり、アプリのトップ画面に重要な情報が一覧で表示されるようになれば、顧客に支持されるのではないかと考えました。

(構成=宮内 健 撮影=大槻純一)

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