大阪の和菓子屋「絹笠」が販売するおこわ「とん蝶」は、同社の売り上げの9割を占める看板商品だ。平日でも1日2000〜2500個、お彼岸には7000個を作る工場では、機械に頼らない手仕事が続いている。人気を支えるとん蝶づくりの舞台裏を取材した――。(後編)

売り上げ3億円超、9割が「とん蝶」

すべて手作りの「とん蝶」の消費期限は当日限り。絹笠本店と、大阪の主要ターミナル駅や百貨店でしか手に入らず、取り寄せもできないという「縛り」がありながらも売れ続けている。

コロナ禍の経営難で、大福やあんみつといった生和菓子の製造を中止し、「とん蝶」を主力に据えた判断は正しかった。

材料の高騰により価格を改定した影響もあるが、絹笠の2025年度の売り上げは3億円を超え、コロナ禍の約3倍にまで回復した。しかも、売り上げの9割を「とん蝶」が占めているという。

「和菓子だけでは、とてもじゃないけど乗り切れませんでした。とん蝶を考案した祖父は、ほんまにすごいなと思います」(絹笠の社長・興津真生さん)

期間限定で登場する季節の味わい

多彩なバリエーションも、人気を集めた要因といえるだろう。最初は1種類だったが、徐々に増やしていき、いまや常時6種類ほど揃う。

三島食品のゆかりのさっぱりした味わいと彩りを楽しめる「ゆかりとん蝶」(5月〜9月)
筆者撮影
三島食品のゆかりのさっぱりした味わいと彩りを楽しめる「ゆかりとん蝶」(5月〜9月)

「とん蝶(白蒸し)」と、「七味とん蝶」は、通年販売していて、「黒豆とん蝶」(10月〜1月)、「ちりめん山椒とん蝶」(2月〜4月)、「ゆかりとん蝶」(5月〜9月)は期間限定。取材した8月には、阪神梅田本店限定の「とうもろこしとん蝶」も販売されていた。

ほかにも、短冊切りの塩ふき昆布を使った「あじろぎ入りとん蝶」、「細切り梅昆布入りとん蝶」があり、百貨店からの依頼で、大阪の老舗昆布店とコラボして生まれたという。

変わらぬ味や季節限定品を求めて、つい立ち寄ってしまう販売戦略がなんとも心憎い。「とん蝶」ファンにリピーターが多いのも納得だ。

阪神タイガースをイメージした「とうもろこしとん蝶」(阪神百貨店限定)。とうもろこしと黒ごま入り
筆者撮影
阪神タイガースをイメージした「とうもろこしとん蝶」(阪神百貨店限定)。とうもろこしと黒ごま入り

昔ながらの「白蒸し」が原点であり頂点

「一番人気は、昔から変わらないとん蝶(白蒸し)です。季節限定などさまざまな味を楽しんだあと、最後には原点ともいえる定番の味に戻ってきてくださいます」

ちりめん山椒とゆかりは、絹笠の直営店限定商品として生まれた。当時は、ミナミ店で「ちりめん山椒とん蝶」を、アベノ店では「ゆかりとん蝶」を販売していた。できるだけ手間がかからず、味だけ変えられるものはないかとアイデアを出し合い、何度も試作してなんとか捻り出したという。新しい味を考案する際のこだわりについても教えてくれた。