ロシアのプーチン大統領が名前すら口にしない人物がいる。反体制派指導者ナワリヌイは、プーチン政権の裏側を、映像や資料を駆使して具体的に明らかにしてきた。このため何度も収監され、毒殺未遂事件も起きている。ドイツとイギリスに拠点を置く研究者たちの著書『ナワリヌイ プーチンが最も恐れる男の真実』(NHK出版)より、NHKの安間英夫解説委員の解説をお届けしよう――。
ウラジーミル・プーチンとアレクセイ・ナワリヌイ
ウラジーミル・プーチンとアレクセイ・ナワリヌイ(写真右=The Presidential Press and Information Office/CC-BY-4.0/写真右=IlyaIsaev/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

頻繁にニュースでは取り上げられてきたが…

ロシアの大統領・プーチンは、ナワリヌイのことを「ブロガー」、「ベルリンの病院の患者」などと呼び、その名前を決して口にしない。まるで存在を認めないかのようだ。

ナワリヌイは、南アフリカのネルソン・マンデラやソビエト時代の反体制作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンらの名前をあげて比較される。人権や民主主義、言論の自由をめぐって、プーチン体制の映し鏡と考えられ、プーチンがもっとも恐れる存在とされている。

ロシアの政治に関しては、プーチンやプーチン体制についての本が数多く出版されている。これに対してナワリヌイについて書かれた本はそんなに多くない。メディアでは、プーチン大統領と対峙たいじする政敵として頻繁にニュースとして取り上げられてきたが、まとめて記されたことは少なかった。

本書は、ドイツとイギリスに拠点を置く新進気鋭の研究者たちが、あまり知られていないナワリヌイの実像に多角的な視点から迫り、そこに映るプーチン体制の姿を考察しようという試みである。