憲法改正で83歳まで大統領にとどまることができるように

本書では、ナワリヌイが収監されたあと、2021年4月、政権側がナワリヌイと反汚職基金(FBK)を過激派組織に認定するよう裁判所に求めたことが書かれている。その後、6月に認定され、活動はきわめて難しい状態となった。

G7やEUなどは厳しく批判しているが、プーチン政権は、ナワリヌイの活動の舞台となるSNSなどネット業者も含め、徹底的に規制を強めたり、取り締まったりしていく構えだ。

ナワリヌイは、2021年8月に掲載されたニューヨーク・タイムズ紙の書面インタビューで、政治犯と同じように、プロパガンダ映画を見せられたり、睡眠を妨げられたり、苦痛を受けているとしている。

ロシアでは2021年9月、2024年の大統領選挙の前哨戦と位置づけられる下院選挙が行われたばかりだ。プーチン政権与党の統一ロシアは前回2016年のときより得票率、議席数を減らしたものの、それでも定数450人の70%を超える324議席を獲得した。

プーチン政権は2020年、憲法を改正し、プーチン大統領は2024年以降も立候補して当選すれば、最長で2036年、83歳まで大統領職にとどまることができるようになった。ロシア政治の最大の焦点は、プーチン大統領が再び立候補するのか、それとも後継者を指名するのかだ。

ただいずれの場合でも権力側はプーチンが築き上げた体制、システムを存続させることを目指している。

政権側にも言い分があるだろう。体制を揺るがす行動をして、かつてのように本当に国家体制が崩壊したらどうなるのだろうと。

権威主義、強権主義を強める体制にどう向き合っていくのか

ヤン・マッティ・ドルバウム、モルヴァン・ラルーエ、ベン・ノーブル、熊谷 千寿(訳)『ナワリヌイ プーチンが最も恐れる男の真実』(NHK出版)
ヤン・マッティ・ドルバウム、モルヴァン・ラルーエ、ベン・ノーブル、熊谷 千寿(訳)『ナワリヌイ プーチンが最も恐れる男の真実』(NHK出版)

しかし本書にも登場する石油会社ユコス元社長のホドルコフスキーや、投資家の弁護士のマグニツキーなど、政権に反対する人たちが投獄されたり、殺害されたり、危害を加えられたりという現状が続いているのは覆い隠せないロシアの現実だ。

権威主義、強権主義を強める体制にどう向き合っていくのかは、ロシアに限らない問題であり、決して目を閉ざしてはならないと思う。

ナワリヌイは2021年10月、欧州議会から、人権問題や思想の自由を守るために献身的な活動をしてきたとして、旧ソビエトの反体制物理学者の名を冠した「サハロフ賞」に選ばれた。また、2021年のノーベル平和賞に選ばれたロシアの新聞ノーヴァヤ・ガゼータの編集長ムラトフも、ナワリヌイがノーベル平和賞にふさわしいという考えを述べた。

ナワリヌイの動向は今後も注目されていくことになるだろう。

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