プーチン大統領の支持率がいまだに高いワケ

プーチンの大統領としての支持率は今でも60パーセント前後を保っている。これに対して大統領選挙があった場合、ナワリヌイに投票するとしているのは数%に過ぎない。なぜ、ナワリヌイに対する支持が拡大していかないのだろうか。

まず本書で指摘されているように、プーチン政権は2000年代に経済的な発展をもたらしたほか、支持を奪われないように人気取りの政策をとり、巧みに現実的な対応をとってきたことがあるだろう。プーチン政権が決して力のみで統治してきたわけではないのだ。

ナワリヌイの支持率が低いままにとどまっているのは、ロシアの人たちがおよそ30年前、ソビエト連邦という国家体制があっけなく崩壊し、人生が変わるほどの辛酸をなめる混乱を経験したことが大きな要因と考えられている。

「正義を重視した無秩序の混乱」より、「ある程度腐敗し自由が制限されたとしても秩序ある安定」の方がまだましと捉える人たちが、いまだに混乱の時代を経験した世代を中心に大半を占めているからだ。

2013年6月12日にモスクワで行われた抗議デモに参加したアレクセイ・ナワリヌイ、アンナ・ヴェドゥータ、イリヤ・ヤーシンの各氏
2013年6月12日にモスクワで行われた抗議デモに参加したアレクセイ・ナワリヌイ氏(写真=Bogomolov.PL/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

「背後にいる欧米が抗議デモを支援している」

では、ナワリヌイはプーチンの地位を脅かす政治家にはなっていないのに政権側が神経をとがらせるのはなぜなのだろうか。

プーチンはナワリヌイについて2020年12月、「アメリカの特殊機関に支持されている」と指摘した。さらにその後、抗議デモなど反政権的な動きについて、帝政が倒れたロシア革命やソビエトの崩壊といった自国の歴史を例にあげながら、体制や国家の崩壊につながるおそれがあり、無許可のデモは決して容認できないという立場を示した。

この発言から見て取れるのは、プーチンにとってナワリヌイは「欧米の手先」であり、背後にいる欧米が抗議デモを支援して体制転覆を狙っているという警戒感だ。主張の真偽より、最高権力者のプーチン本人がこのように警戒心を抱いていることが重要だ。

ナワリヌイの主張に賛同するのは、若い世代、都市部、テレビよりネットを見る人たちに多い。時代の推移とともにこうした層が増えていけば、世論の動向も変わるかもしれない。ただそれには、まだ長い期間がかかりそうだ。