「時間差販売」というアイデアはあったが

「ぜいたくな悩み」と聞こえるかもしれない。しかし、店舗がフル稼働となっていたのはピーク時の話である。問題は夜の23時から翌朝の11時までの「裏側」の時間帯だった。

各種の飲食店チェーンのなかには、24時間営業に踏み切っている業態もある。しかし、スシローが企業理念として掲げる「うまいすしを、腹一杯」というニーズが、24時間常にあるとはいいがたい。回転ずし店が深夜・早朝の時間帯に千客万来となることは考えにくく、あり得るとしても、それは巨大都市の中心部などの特殊なエリアでしかない。

そこで、既存店舗の設備の空き時間帯に持ち帰り用のすしを調理し、時間差で販売してみてはどうかというアイデアが浮上した。しかし、作ったすしをどこでどのように販売すればよいのか。考えてはみたが、新たな事業の開始にはいたっていなかった。

スーパー視察で得たヒント

2020年4月、コロナ禍による緊急事態宣言の発出を受け、飲食店の営業休止や営業時間短縮などが相次いだ。激変する市場環境のなか、あきんどスシローの堀江陽社長は大阪府下のスーパーを視察した。すると、街中の飲食店の利用に制限がかかるなか、入り口付近にある持ち帰りずしの専門店が活況を呈していた。スーパーでも持ち帰りのすしは販売されていたが、お客が集まっているのは専門店の方だった。

堀江氏の胸中にコロナ禍以前からの課題がよぎった。スシローの既存店舗で空き時間に調理したすしを、駅前や商店街などにスペースを確保して運び込めば、新しい生活様式の下での旺盛なすしへの需要をとらえるとともに、既存店舗の成長問題への解を手にすることができるのではないか。

程なくして、コロナ禍による各種の店舗の撤退などから、各所の商業スペースに空きが広がっていく。そのなかでJR芦屋駅の改札横に空いたスペースに、期間限定で出店しないかとのオファーがスシローに舞い込んだ。

たまたまスシローでは、芦屋エリアの2つの既存店舗を、契約年限の満了にともない閉店していた。改札横にテイクアウト専門店を出店すれば、同エリアのスシロー・ファンの渇望感にもこたえることにもなる。実験店の開設を、堀江氏は決断した。