シャトレーゼの店舗は郊外が中心だ。その原点は、工場直売システムを始めた店舗にあった。甲府駅から4~5キロ、田畑の中に作った実験店「新々平和通り店」だ。なぜ郊外を選んだのか。会長の齊藤寛さんが解説する――。

※本稿は、齊藤寛『シャトレーゼは、なぜ「おいしくて安い」のか』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。

工場火災、新工場の不調、人材不足という不運

主力工場の火災、新工場の不調、人材不足と不運が続く中、シャトレーゼの商品が並んでいた小売店の棚は、他社の製品に置き換わっていました。厳しい競争が続く業界で、満足に商品が届けられなかったのですから、仕方がありません。

さて、どうするか。

営業の要だった弟は、もういません。でも僕は、頭を下げて注文をとるのは大嫌いなんです。

売り場を持たないメーカーは、立場が弱い。卸す先によっては、「いやならやめてもらっていいよ」と言わんばかりのところもあります。「取引を続けたかったら、わかっているよね」という無言の圧力で、販売協力費という名目の寄付金を強要されたり、約500万円の高級腕時計を買わされたりしたこともありました。

何よりも悔しかったのは、おいしさは二の次で安さを優先させようとする姿勢です。お値打ち価格で提供するのは悪いことではありませんが、それはおいしさあってのことです。安かろう悪かろうでは、まったくお客様をバカにしています。

「売りに行くのではなくて買いに来てもらおう」

シュークリームに続いて力を入れた商品は、ロールケーキです。シャトレーゼのロールケーキは、鉄板の上に直接スポンジ生地をのせて焼くのではなく、鉄板の上に紙を敷いて、その上に生地を流して焼くやり方に改良しました。そうすることで、スポンジが非常にソフトになるのです。

それを小売店に持っていったところ、「これはうまい!」ということで商談成立。一躍、シャトレーゼのロールケーキは人気商品になりました。

ところが、「ロールケーキというのは売れるものだ」と味をしめたのでしょうね。もっと安くできないかと要求され、質を落とすわけにはいかないからと断ったら、安い他社製品に置き換えられてしまったのです。

シャトレーゼの商品がおいしくてロールケーキが人気になったのに、安いというだけで他社に乗り換えるなんて、悔しいじゃないですか。

そういう苦い経験もありましたので、このピンチを機に、「ようし! だったら、売りに行くのではなくて買いに来てもらおう」と頭を切り替えたのです。