テイクアウト専門店のためのチューニング

テイクアウト専門店で販売するすしは、近隣の既存店舗で早朝と昼のピーク後の時間帯に調理を行うことにした。新たな設備は不要であり、スタッフの勤務時間を延長したり、新規スタッフを雇用したりするだけで対応できる。

調理に使う魚や米や酢などは、従前の回転ずしと同じものを使用することにした。とはいえ、解凍の手順や酢飯の合わせ方などについては、新しい方法を採用した。顧客に「うまい」と感じてもらうためのポイントや、衛生管理上の条件が、回転ずしとは異なるからだ。

例えば、シャリの温度もそのひとつである。街中のすし店などでは「シャリは人肌で」がよいとされ、スシローの既存店舗もこれを踏襲していた。だがテイクアウト専門店では、冷蔵ケースに並べて販売したすしを顧客が持ち帰り、さらに冷蔵庫などで保存してから食べるケースが多くなる。当然、口にするシャリの温度は寿司店内で食べるすしとは異なり、この違いを踏まえた対応が必要になる。

そうした準備を経て、JR芦屋駅のテイクアウト実験店舗がいよいよ開業した。ところが、当初の販売は伸び悩んだ。堀江氏が店舗を訪れたところ、問題が何かは一目瞭然だった。パックされて冷蔵ケースに並ぶすしの、ネタの置き方にばらつきがあり、「寿司の顔」がそろっていなかったのである。

スシローは既存店舗でもテイクアウトを行っていた。予約をした顧客が店舗を訪れ、すしおけを持ち帰るというスタイルである。その場合、すしのネタの置き方がおけごとに違っていても、他人の注文したおけを見ることはないから、顧客は気にしない。

しかし、パックされた商品を冷蔵ケースに陳列するスシローTo Goでは、そうはいかない。同じ「にぎり盛り合わせ10貫(税込み690円)」は、すべて同じ見た目で並んでいなければならない。素材や衛生や調理方法に問題はなくとも、陳列時の見た目にばらつきがあれば、顧客は違和感を抱き、購買をためらってしまう。

「寿司盛り合わせ」
写真提供=あきんどスシロー
「まぐろ」「はまち」「えび」「太巻き」が入って650円(税込)の「寿司盛り合わせ」

問題に気づいた堀江氏は、改善を指示した。ネタの置き方のノウハウは短期間で確立し、販売は上向いていった。こうした試行錯誤の成果を踏まえたうえで、スシロー To Goの多店舗展開は始まったのである。

スシローにとって、スシローTo Goの展開は単にコロナ禍への短期的対応にとどまらない。既存店舗のピーク時以外のリソースを活用し、新たな売り上げ拡大の余地を創出したスシローToGoは、コロナ後の世界においても同社の成長戦略に大きく貢献する可能性が十分にある。