脳内の葛藤と対話

脳科学の分野でも、キャッテルの研究と呼応するように、狂人性と秀才性の往復的なプロセスが脳の構造に現れている事実はすでに証明されている。脳科学者のロジャー・スぺリーやマイケル・S・ガザニガは、左脳と右脳のあいだにある脳梁が切断された人(分離脳)を詳しく調べた。

その結果、図表3のように、右脳と左脳には部位ごとに独自の働きがあり、互いに往復しながら思考を補い合っていることがわかった。現在よく知られている「感覚的な右脳」と「論理的な左脳」の違いは、彼が発見した理論を基にした考え方だ。

人は大昔から、煩悩や葛藤を「天使と悪魔のささやき」というたとえ話で語ってきた。このたとえ話が、実際に脳の思考プロセスのなかで起こっていることを、右脳と左脳の働きの違いによって証明したのだ。

脳は、葉といわれるさまざまな領域に分かれて、それぞれの場所が別々の思考を担当する。それぞれの葉は連合線維というネットワークで互いにコミュニケーションをとっている。この「会話」に脳機能の90%が使われているというのだから、いかに私たちが日々の思考のなかで葛藤しているのかがよくわかる。

右脳・左脳で分けるのはいささか乱暴だが、天使と悪魔のごとく、脳内には「変異的な右脳=狂人的な思考」と「適応的な左脳=秀才的な思考」が、別々の部位の働きとして存在している。こうして、狂人性と秀才性を絶えず葛藤させることによって、はじめて人は思考できるというわけだ。脳科学的に見た場合、それが「思考の自然状態」といえそうだ。

発想と取捨選択を超高速度で繰り返す

こうした考察を通して、私はひとつの結論に達した。

創造性とは、「狂人性=変異」と「秀才性=適応」という2つの異なる性質を持ったプロセスが往復し、うねりのように螺旋的に発揮される現象である、という考えだ。

歴史上の天才と呼ばれる発想豊かな人たちは、時には常人には想像すら及ばない数々の偉業を成し遂げてきた。しかし、彼らだって、身体や脳の構造は私たちと違っているわけではない。天才の頭のなかで起こっているのが、この往復だとしたらどうだろうか。

天才たちは、狂人的な変異の思考を全開にして、前例のない発想を無数に生み出しながら、それらを秀才的な適応の思考によって取捨選択している。こうした発想と取捨選択を超高速度で繰り返しているのが思考の構造なら、私としては大いに納得がいく。天才と呼ばれる人たちは、誰でもできることを、高速で繰り返す癖がついているのではないか。

もしそうだとすれば、創造性とは、天才だけに再現可能な、秘密のベールにつつまれた魔法ではなくなり、実習可能な技術となる。私自身、長年にわたってデザイナーとして何かを作る仕事をしてきた。そんな私にとっても、この変異と適応の往復が、アイデアを考える頭のなかで起こっている感覚が確かにある。そんな感覚は、きっとみなさんの頭のなかにもあるのではないか。

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