天才たちの頭のなかはどうなっているのか。デザインストラテジストの太刀川英輔氏は「脳科学的にみても、バカと天才は紙一重であるようだ。重要なのは狂人性と秀才性を葛藤させながら思考させることだろう」という――。

※本稿は、太刀川英輔『進化思考 生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』(海士の風)の一部を再編集したものです。

バカと秀才の実像

天才をめぐるバカと秀才の議論は、歴史のなかで数え切れないほど語られつづけてきた。いったい天才とは「孤独な狂人」なのか、それとも「努力を惜しまぬ秀才」なのか。創造性の本質として語られるこの2つの資質をもう少し精密に整理してみよう。

ここでいう狂人性とは、人のやらないことをやること、すなわち常識からの変異度を指していると考えてよいだろう。それにたいして秀才性とは、状況を把握して本質を理解するためのプロセス、すなわち状況への適応度だと考えられる。

もしそうならば、同居しないように見えるバカと秀才は、実は相反していないことになる。エジソンやテスラのように「努力によって培った知識や実証を武器に、前例のない行動に踏み込む人たち」は、この定義でいえば「秀才的狂人」であり、2つの資質を兼ねそなえているのだ。

狂人性と呼ばれてきたものが未知に挑戦する躊躇のなさのことなら、それは新しい方法(HOW)への柔軟性とも呼び替えられるだろう。そして秀才性と呼ばれてきたものが状況を理解する力のことなら、それは物事の本質(WHY)の理解力に他ならない。これらは両方とも、創造性にとって不可欠な思考であるのは間違いないだろう。こう考えるとあらためて、創造性には「バカ=変異=HOW」と「秀才=適応=WHY」という二面性の思考があると考えるのがしっくりくる。この2つの思考を両立させる方法がわかれば、誰でも天才のような力強い創造性を発揮できるのではないか。

創造性と年齢の関係

年を追うごとに頭が固くなるとよく聞くけれど、本当にそうなのか。一方で、経験があるから創造できるのも間違いない。年齢と創造性の関係はどうなっているのだろう。変異と適応をめぐる仮説を補ってくれる理論が、心理学や脳科学でも研究されている。

心理学者のレイモンド・キャッテルは、人の知能には2つの異なった性質があることに気づいた。それを彼は「結晶性知能」と「流動性知能」と呼んだ。結晶性知能とは、学校での学習や社会での規範など、経験によって培われる知能をさす。いっぽう、流動性知能は、新しいアイデアを考えだしたり、新しい方法で課題を解決したり、新しいことを学習したりするための知能だとキャッテルは定義している。

この2つは、分類の軸の差はあるが、私がこれまで指摘した天才のなかにある秀才性と狂人性の2つの概念に呼応しているように見える。

キャッテルの研究によれば、図表1のように、流動性知能は10代で急激に発達するが、20歳前後をピークに、その後は徐々に下がっていく。逆に、結晶性知能は、経験を積んで、年を重ねれば重ねるほど高まっていくという。

さらに調べていく中で発見した興味深い事実は、図表2のように、この流動性知能の曲線が、犯罪をどの年齢で犯しやすいかを調査した「年齢犯罪曲線」のピークとほぼ一致することだ。まさに、狂人性と流動性知能の一致をここに見ることができる。