エルメスの美意識を承継する職人の矜持

優れたプロダクトの裏には、美意識をもった「目利き」が存在します。そのことを実感したのは、フランスからエルメスのトップマネジメントと職人頭を日本に招き、日本の工芸職人にレクチャーを行っていただく機会を頂いたときです。

エルメス
写真=iStock.com/LewisTsePuiLung
※写真はイメージです

まず驚かされたのは、エルメスの職人頭が、トップマネジメントでさえも口を出せないほどの強い権限をもっていることでした。トップマネジメントは職人を尊敬しており、「余計なことは言わない」のがエルメスのブランディングにとって大切であると心得ていました。

さらに、エルメスの職人頭に、日本の工芸作品を見せたところ、「これはプロの作品なのか、それともアマチュアの作品なのか」と私に聞いてきました。その理由は、後で知ったのですが、工芸とは「優れた製品を創るための今日的な技術」なのであり、「単なる伝統を再現した作品づくりのためにあるものではないから」であるといいます。

エルメスの職人頭には、日本の工芸が伝統を重んじるアート作品に見えたのです。工芸的な技術は、製品づくりに生かされてはじめて意味をもつと考えているので、それ自体を絵画や彫刻のように扱う工芸には違和感を覚えたのでしょう。これは文化の違いによるものですが、日本の工芸を考え直す意味で示唆に富む指摘です。

また、ものすごい自信の表れともとれる言動ですが、こうした矜持をもつ職人こそが、ヨーロッパの文化を今日まで承継させている原動力なのでしょう。

彼らの話を聞くことで、現代においても、エルメスの製品は、一流の職人と、何代も続く貴族を中心とした得意客との対話により生まれているということを知りました。

長きにわたる歴史の中で培われてきた貴族の美意識が、職人との濃密なコミュニケーションを経て、エルメスの商品に昇華されているのです。そしてそれは単なる高級品ではなく、生活文化に今も生かされた美意識なのです。

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