自分の好きなものを徹底的に掘り下げていく
彼の発想はセンスがいい。
あの商品のセンスは素晴らしい。
ビジネスシーンでも私たちはセンスという言葉をよく使います。一方で、センスというのは持って生まれたもので、後天的な努力でどうにかなるものではないとあきらめている人も少なくないようです。
そこで、今回はセンスについて考えてみようと思います。
そもそもセンスとは、どんな能力のことをいうのでしょうか。
たとえば、音楽業界でいえば、90年代にミリオンセラーを連発した小室哲哉さんは、大衆の心をつかむ曲をつくるセンスがあったといえます。
一方、坂本龍一さんも、国内のレコードセールスは小室さんほどではありませんが、世界各国に一定数いる耳の肥えた音楽ファンから圧倒的に支持され続けているという点では、やはりセンスのいい音楽家だといっていいでしょう。
そして、20世紀にもてはやされたのは、自分の音楽を追求する「世界のサカモト」よりも、社会の空気やトレンドを読み、次に何がはやるかをいち早く見抜いて、そこにはまる曲を提供できる小室さん的なセンスのほうでした。
ところが、21世紀になると、小室さん的なセンスの評価は徐々に下がっていきます。世の中の複雑さや不透明さが増したことに加え、人々の価値観が多様化したことで、マスセールス自体が難しくなってきたためです。
さらに、メディア環境の変化もあります。
以前は、広告宣伝の手段がマスメディアに限られていたため、1万人のうちの1人にしか受け入れられないようなものは、なかなか市場に出てきませんでした。ところが、いまは誰もがいつでもスマートフォンでインターネットにアクセスできます。SNSのようなソーシャルメディアを使えば、1万人に1人の共感者とすぐにつながれる。しかも、ネットに国境はありませんから、日本で1万人しかファンを獲得できなくても、100カ国であれば100万人ですから、じゅうぶんビジネスとなります。
それゆえ、次に何がはやるかを予想できるよりも、自分はこれが好きだというものがはっきりしていて、なおかつそれをアピールできるセンスのほうが、現在では価値が高まっているのです。
つまり、結論をいえば、自分の好きなものを徹底的に掘り下げていくことで、おのずとセンスも磨かれていくということになるのです。