スペキュラティブ・デザインを採用することもセンスである

センスの有無は、人だけではなく企業にもあります。

少し前に、学校や社会でいじめや差別を受けて悩む3人の少女が、スポーツを通じて自分のアイデンティティを確認し、乗り越えていくというナイキのコマーシャルが物議を醸しました。

あのCMは、スペキュラティブ・デザイン、あえて議論を巻き起こすことを狙っています。

スペキュラティブとは、「こういうこともありえるのではないか」という可能性を提示することです。マイノリティに対する差別という問題は、日本にも存在するということを視聴者に気づいてほしいというメッセージを、ナイキはより多くの人に伝えたかったのでしょう。

また、ザボディショップは「Forever Against Animal Testing」というキャンペーンを通じて、化粧品業界が動物実験を恒常的に行っているという事実を白日の下にさらしました。

社会問題を告発する声というのは、それだけだとなかなか世の中に広がりません。そこで、この2社は、CMやキャンペーンにしたのです。しかも、一方的に正論を振りかざすのではなく、どうしたらいいかを消費者に考えさせるつくり方をしている。

ビジネスのポジションは「役に立つ・役に立たない」と「意味がある・意味がない」の2つの軸で整理できます。

山口周『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(プレジデント社)
山口周『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(プレジデント社)

日本の多くの企業はいまだに前者の軸だけで商品開発をしていますが、それだと生き残れるのはトップの企業だけ。ゆえに、戦略としては、提供するモノやサービスにどれだけ意味をもたせられるかを考えるべきなのです。

その際、こういう社会を実現しようとしているという企業の姿勢が明確になっている必要があります。そこがはっきりしていれば、それに賛同する人たちは、消費者としてその企業を応援しようとするでしょう。

ところが、できるだけ多くの人を取り込みたいといって企業のポジションを曖昧なままにしていると、攻撃はされないかもしれませんが、味方もいなくなります。

ナイキもザボディショップも、反対意見があるのを承知で自分たちの旗色を鮮明にしました。

こういうのを、センスがある企業といいます。

(構成=山口雅之)
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