アート作品の価格はどのように決まるのか。『アート思考』(プレジデント社)の著者で東京藝大美術館長の秋元雄史氏は「草間彌生が制作した『かぼちゃの彫刻』は8億円で落札された。これには彼女の歩みと認知の広がりが大きく関わる」という――。(第5回/全5回)

※本稿は、秋元雄史『アート思考』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

写真=時事通信フォト
芸術家・草間彌生作「南瓜」=2016年10月28日、香川県直島町

知られざるアートの価格の決まり方

現存するアーティストの作品にこれほどの値がつけられるアートの価格は、一体どのようにして決まるのでしょうか。それは資本主義における市場経済の原理と同様に、需要と供給のバランスというのが、ひとつの要因です。当然、需要が多くて供給が少なければ価格は高くなり、需要が少なく供給が多ければ価格は安くなります。

ただ希少性だけで価格が上昇するかといえば、それほど単純なものではありません。アーティストの知名度、制作年代、存命か物故か、制作された作品数はどのくらいか、これからも新たな作品が世に出るのかといったアーティストに関する様々な条件により、価格は決まります。

アート作品は、版画やブロンズ彫刻などは別にして、基本的には、作品はオリジナルの一点だけです。この一点の作品しか存在しないということが、アートの一大特徴で、他の商品と比較したときの決定的な差でしょう。

作家は数多くの作品を制作しますが、ひとつの作品というのは、そのオリジナル性がさらに無形の価値にまで発展していくときに、アートの価値がはじめて生まれます。

アートの価値というのは、目に見えないものですが、そこに「交換価値」が存在するのです。一枚の作品が価値あるものになるためには、それを作り出す一人のアーティストの歩みやそれを支える美術というシステムをひもとく必要があります。

高値をつくり出すメカニズムは、ある意味では抽象的な価値の生産と関連しているといえますが、それはアートがつくり出す「物語」とつながっています。この例としては、「美術史」がわかりやすいでしょうか。

ダ・ヴィンチの(モナ・リザ)が素晴らしい芸術作品であると思えるのは、私たちが美術史の中でモナ・リザを学ぶからです。美の殿堂であるルーブル美術館に展示され、歴代の専門家たちによって、その素晴らしさを説明されて、人類の宝だと教えられてきたからにほかなりません。