上場前の未公開株を買うようなもの
その場合の価格は、作家の業績や将来性、人気などによって異なりますが、業界で通用する価格帯で決まります。ギャラリーで、その作品を購入するのは、かなり慣れた人でないと勇気がいるかもしれません。作家はいわば個人商店のようなものですし、基本的には自己責任のもとでの売買ですから、いわば上場前の未公開株を買うような感じに近いでしょう。
ただし、欧米の有名コレクターたちは、プライマリー・マーケットで購入してきました。欧米のコレクターたちは他人のマネをしたくない個性の強い人たちが多いということもありますが、アメリカでは税制の優遇制度があるという事情もあります。
ギャラリーは、かつてはタレントとその所属事務所のような関係を持っていて、アーティストをマネジメントするだけでなく、プロデュースを行ったり、プロモートをしたりしていました。ここのところ事情が変わりつつあり、資金的にも時間的にもそこまでアーティストと二人三脚で仕事をすることができるギャラリーは、少なくなってきています。
数年前、ニューヨークの力のあったプライマリー・ギャラリーが大量に閉店する事態が起きました。主要な儲けの場がオークションなどのセカンダリー・マーケットに変わってきたからです。
実際に世界でもっとも力を持つといわれているガゴシアン・ギャラリー、ペース・ギャラリーは、セカンダリー・ギャラリーの大御所です。サザビーズ、クリスティーズは国際的なオークション会社で、セカンダリー・マーケットを動かしています。
すでにセカンダリー・マーケットで取引される大御所アーティストはいいですが、これからメジャーを目指す若者や中堅には実績を積むためのプライマリー・ギャラリーの閉店という事態は厳しい状況です。今後、アーティストだけでなく、アート業界にも影響を与えていくと言われています。
アーティストに1円も入らないセカンダリー・マーケット
アーティストに人気が出始めて、作品の供給も行きわたると、ギャラリーによる供給だけでなく、一度購入されたけれども、再取引の場に登場する作品が出始めてきます。それがセカンダリー・マーケットに流れていきます。
前出のオークション市場は、セカンダリー・マーケットと呼ばれる売買の主要な場ですし、他にセカンダリー・ギャラリーと呼ばれる二次流通の作品を扱うギャラリーもあります。作品の高騰にはオークション会社やセカンダリー・ギャラリーでの取引が影響していると言われています。高値の更新は、常にオークション会社の取引によってなのです。
オークションもセカンダリー・ギャラリーも通常の製品サイクルでいえば、中古市場というふうに考えていただいていいのですが、ここからがアート作品の面白いところで、この場所で芸術性の高いものとそうでないもので、大きな価格差が生まれてくるのです。
作家の業績や知名度、作品の来歴、状態、クオリティなどによっても値段は左右され、アーティストによって大きな価格差が生まれます。草間は勝ち組ということになります。
ところが、たとえそうであっても、セカンダリー・マーケットにおいては、すでに作品がアーティストの手を離れているので、アーティストにはお金が1円も入らないのです(そのことに疑問を感じて自分の作品を直接、オークションで売ろうとしたダミアン・ハーストのようなアーティストもいます)。