時代の変化をいち早く捉えるには、アーティストの嗅覚に頼るといい。『アート思考』(プレジデント社)の著者で東京藝大美術館長の秋元雄史氏は「現代アーティストの役割は、これまでの古いしきたりに囚われない見方を創造して、イノベーションを起こすこと。そのため優れたアーティストは、さまざまな常識を疑う『野生の眼』を持っている」という――。(第2回/全5回)

※本稿は、秋元雄史『アート思考』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

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時代の変化をいち早く嗅ぎ分ける直感力

世界中のアーティストたちと接していて実際に驚くのは、彼らが鋭い嗅覚で時代を捉え、思いもよらない発想でアートとして表現しているということです。

私が仕事を一緒にした現代アーティストの中には、そのような作家が数多くいます。その一人、日本の柳幸典は、世界が政治、経済、文化など、様々なレベルでグローバル化し、流動化した90年代から2000年代の国際社会のイメージを視覚化しています。

柳の「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム」という作品は、当時の100カ国あまりの国々の国旗をモチーフにしています。それぞれの国旗は色のついた砂でつくられ、そこに生きたアリが生息するというものでした。無数のアリは日々巣づくりを繰り返します。

しかしながら、そのたびに国旗は形を変え、中には原型を留めないほどに変形した国旗も出てきますが、働くアリたちはそれにはまったく気づかずに動き回ります。この作品を俯瞰して眺める私たちには、国家が崩壊し世界が流動化していくさまが、ユーモアを交えた生きた出来事として映るのです。

現代は、アフリカ諸国のように内戦で国の姿がなくなり大量の難民が生まれる時代でもあれば、グローバリゼーションで国境を越えて人やものが大量に移動する大物流時代にもなっています。柳は、社会変化として実感のなかった時代に、いち早くグローバル化の孕む危うさや緊張を視覚化し、作品化していたのです。

これはほんの一例ですが、柳の時代の変化をいち早く嗅ぎ分けていく直感力とそれらをイメージにしていく力には、驚かされます。今後、ビジネスの世界で重要視されるイノベーションも、そうした常人には思いもよらない発想から生み出されるのではないでしょうか。